はなれじま広報部では、離島における広報やECサイト運用の事例を元に、離島のこれからを紐解いていきます。
今回は、後藤鉱泉所で代表を務める森本繁郎さんにインタビューを行い、3本の記事を制作いたしました。#01では、後藤鉱泉所や事業継承のきっかけについてお話いただいています。これまで親子継承で受け継がれていた歴史ある店を、森本さんが引き継いだ経緯や思いとは。
>>#2「低収益のビジネスモデルを覆した、付加価値を生み出すコラボレーション」はこちら
>>#3「体験と提供価値にこだわった店舗運営。老舗サイダー工場が目指すこれから」はこちら
▼後藤鉱泉所 四代目代表 森本 繁郎氏
1977年生まれ、広島県豊田郡大崎上島町出身。2021年3月に竹原市役所を退職し、同年4月に後藤鉱泉所を事業継承する。先代が守ってきたサイダーの味を大切にしつつ、「怪獣レモンサイダー」をはじめとする新商品を続々と開発するなど、次なる担い手にバトンを繋ぐため積極的に試行錯誤をしている。
昭和5年創業の昭和レトロな清涼飲料水製造所
—— 後藤鉱泉所のこれまでについて教えてください。
私たち後藤鉱泉所は、1930年(昭和5年)の創業以来、サイダーをはじめとした清涼飲料水を作り続けてきました。3代目の後藤さんから2021年に店を引き継ぎ、2024年で創業から94年を迎えます。
現在営業している販売所の奥には、製品を作る工場があります。元々は工場のみでしたが、これまでに何回か増築を繰り返し、今の形になりました。後藤鉱泉所が現在の姿になったのは、昭和30年頃だと記録に残っています。
—— 森本さんは普段どのようなお仕事をされているのでしょうか?
自社製品の製造や店頭での接客が中心です。店頭に立つかたわら、工場では1日あたり500〜1,000本のサイダーを手作業で仕込んでいるのですが、これがかなり体力のいる作業なんです。
—— 後藤鉱泉所の商品について教えてください。
定番商品は、すっきりとした甘さと、ドライな甘めの炭酸が特徴の「マルゴサイダー」です。先代から受け継いだレシピや工程で、昔ながらのサイダーを製造しています。お客様からは、「懐かしい味」だと好評です。
—— 味以外の部分における特徴はありますか?
マルゴサイダーを含む定番商品で、繰り返し使用できるリターナブル瓶を使っていることですね。現在使用しているのは、1970年代に製造された「三ツ矢サイダー」の瓶です。
1970年代に製造されたリターナブル瓶は今でも現役
これらの瓶は、回収後、綺麗に洗浄した上で再び飲料を充填することで、何度でも再利用することができます。瓶の原料や製造エネルギーを削減できるため、環境意識の高まりに伴って再注目されているものでもあります。
ただ、瓶を回収する必要があることから、基本的にはご自宅に持ち帰っていただくことができないのがネックとなります。私はこれを「ここでしか飲めない」という付加価値であると考え、「他では味わえない幻のサイダー」としてお客様に提供することにしています。昭和から続くこの建物で、栓抜きを使いサイダーを味わってもらうという体験ですね。栓抜きを使ったことがない人って実は多くて、結構喜ばれるんですよ。
—— たしかに、最近栓抜きを使う機会は少ないですね。付加価値の付け方に関しては、#2で詳しくお伺いしようと思います。
>>#2「低収益のビジネスモデルを覆した、付加価値を生み出すコラボレーション」はこちら
「幻のサイダー」として販売する「マルゴサイダー」
これまで繋がれてきた地域の宝を後世へと受け継ぎたい
—— 後藤鉱泉所の4代目に就任したのは、どういった思いからだったのでしょうか。
2021年まで竹原市役所の職員として働いていたのですが、人生100年時代と言われる今、65歳で定年を迎えてからもキャリアを積み続けたいと考えるようになり、起業や事業継承を視野に入れるようになったのが出発点でした。
また、高齢化の加速や人口の減少などによる、店舗の減少や空き家の増加などを肌で感じており、地域に根差した事業が、後継者不足により廃業せざるを得なくなっているのを何度も目にしていました。そんな状況を見て、「自分でも何かできないか」と考えたのもきっかけのひとつです。
—— 地域に対する思い入れが強いように感じられました。
そうですね。公務員時代から、「たけはら町並み保存地区」に代表されるような、歴史を活かした町づくりや地域活性化に関わる業務を担当していたので、その気持ちは人一倍強かったのかもしれません。
現在、後藤鉱泉所では「地域の宝を、地域の力に。」というビジョンを掲げ、日々地域に根ざした事業を展開していくことを志しています。これまで受け繋いできた誇るべき文化や歴史、伝統、生活、そして人々の思いを守り、磨き、活かすことで、後世へと引き継いでいきたいです。
—— 後藤鉱泉所のことは、元からご存じだったのですか?
はい。全国放送のテレビ番組「マツコの知らない世界」や「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」などで取り上げられていたので、後藤鉱泉所の存在は自然に認知していました。リターナブル瓶を使った後藤鉱泉所でしか味わえない「幻のサイダー」の存在は、県下でも有名でしたね。
—— そこから、どのようにして事業継承に至ったのでしょうか。
最初の接点となったのは、「後継者不足を解消したい事業所」と「事業を譲り受けたいと考える人」を繋げるマッチングサイトでした。後継者を求める募集がたくさん出ていたのですが、そのうちの一つが後藤鉱泉所でした。
後藤鉱泉所は当時から尾道の観光スポットとして全国的に有名で、観光客も多く訪れていたため、後継者を探しているという事実には驚きました。
そうした現状を知っていくうち、やはり地域の灯を消したくないという思いが強くなり、後継者の募集に応募することにしました。公務員時代は副業ができなかったので、土日を中心に製造や営業について勉強する生活を半年間ほど続け、2021年の4月に4代目として事業を引き継ぎました。
—— こうして広島県尾道市・向島の地で事業を継承することになったんですね。#2以降で具体的な戦略をお伺いする前に、まずは向島の離島としての特性についてお伺いしようと思います。
「プチ船旅」がもたらす非日常感と、抱える課題
—— 向島はどんな島ですか?
尾道側から見ると、向島は「しまなみ海道」が通る一つ目の島です。自転車や原付バイクで橋を渡ることで、気軽に島を訪れることができます。向島を周遊するサイクリングコースもあるので、気軽にサイクリングを楽しみたい人にもぴったりの島ですね。
そして、尾道からは船で来島することも可能です。尾道〜向島の渡船は“日本で一番短い船旅”と言われるほど、乗船時間が短いです。対岸まではわずか4〜5分で、乗船したらすぐに対岸へ到着します。
—— 船で気軽に来島できることのメリット・デメリットを教えてください。
多くの方にとって、船に乗ることは非日常な体験です。そうしたある種のアクティビティを60円〜100円と非常にリーズナブルな運賃で楽しめるのは、大きな強みだと思っています。初めて来島される方には、ぜひ「プチ船旅」を楽しんでもらいたいですね。
ただ、その小さなハードルは、デメリットとしても作用している側面があります。観光目的で尾道に来られた方が尾道エリアの町歩きで満足してしまい、向島を訪れないまま帰ってしまうのです。現状、尾道を目当てに来られた観光客の大半は、渡船に乗って向島まで来ていません。
—— そうした状況を踏まえ、向島の来島者を増やすために地域として行っている取り組みはありますか?
向島を訪れるきっかけになるよう、尾道の観光案内地図などに広告を掲載しています。後藤鉱泉所が位置する兼吉地区は、渡船乗り場が近いことから「向島の玄関口」と呼ばれています。レトロなパン屋さんなど個性ある良い店が点在しており、風情ある街並みが特徴です。
このエリアの魅力を知っていただき、積極的に足を運んでいただけるようにするため、活気ある店やまちづくりにも取り組んでいます。具体的には、地域の事業者を巻き込んだお祭りイベント「にこぴんしゃん祭り」の開催などが挙げられます。移住者の方も多く、イベント時にはかなりの盛り上がりを見せますね。
尾道の観光マップに広告を掲載することも
― 地域一丸となって向島を盛り上げているんですね。#2では、後藤鉱泉所の成長を支えた「コラボレーション」と、ECサイトの位置づけについてお伺いします。
先代が築き上げてきた後藤鉱泉所の歴史や、マルゴサイダーの味わいを後世に伝えていきたいと話す森本さん。事業の灯を消さずに、後世へと繋いでいくには、更なる課題が山積みだったそうです。#2では、森本さんが行った課題解決のための取り組みや、後藤鉱泉所で売上ナンバー1を誇るコラボ商品「怪獣レモンサイダー」についてお話いただいています。
>>#2「低収益のビジネスモデルを覆した、付加価値を生み出すコラボレーション」はこちら
>>#3「体験と提供価値にこだわった店舗運営。老舗サイダー工場が目指すこれから」はこちら