【家島】おもしろさを「よそもの目線」で見つめる -いえしまコンシェルジュ 中西 和也・麻田 景太 #1

いえしまコンシェルジュ#1

はなれじま広報部では、離島における広報やECサイト運用の事例を元に、離島のこれからを紐解いていきます。

今回は、いえしまコンシェルジュとして移住促進に取り組む中西 和也さんと、一棟貸し宿泊施設「ハレテラス」の運営を担う麻田 景太さんにインタビューを行いました。お二人とも移住者ということで、#01では主に「よそもの目線」で見る家島の魅力についてお話いただいています。

>>#2「移住者を増やすためのSNS施策と宿泊施設の運営」はこちら
>>#3「移住から10年。周囲にもたらした影響とは」はこちら


▼いえしまコンシェルジュ 中西 和也氏(写真左)
大阪府出身。大学卒業後、土木系の企業やシンクタンクで勤務。家島の魅力にとりつかれ、2011年に移住する。以来、観光ガイドやカフェ「スコット」の運営、空き家対策など家島振興のために幅広く取り組みを続ける。2022年には一棟貸し宿泊施設「ハレテラス」を開業。

▼いえしまコンシェルジュ 麻田 景太氏(写真右)
高校卒業後、米国・シアトルでの在住経験を経て帰国。インバウンドを中心とした宿泊施設で勤務していたものの、新型コロナウイルスの影響で転職を志す。2023年から、「ハレテラス」の運営スタッフおよびいえしまコンシェルジュの広報担当として家島に移住。

きっかけは「島に行きたい」ではなかった

—— まずはお二人の簡単な経歴や、現在のお仕事について教えてください。
(中西さん:以下、敬称略)
大阪府出身で、大学卒業後は土木施工管理会社や都市計画系のシンクタンクで仕事をしていました。家島との出会いは2009年。NPOいえしまの「ゲストハウスプロジェクト」をきっかけに移住を決めました。今は「いえしまコンシェルジュ」としてガイドをするかたわら、島内の「海がみえるカフェ スコット」や宿泊施設「ハレテラス」の運営に携わっています。

(麻田さん:以下、敬称略)
私は神奈川県出身で、家島に移住したのは2023年の4月のことです。それまではインバウンド向けの宿泊施設で働いていたのですが、コロナ禍に入ってインバウンド向けの宿泊業界が大打撃を受けたことにより、転職することに。その中で偶然「ハレテラス」の運営スタッフ募集を目にしたので、応募してみたら、とんとん拍子に事が進んでいって気づけば家島に移住していました。今は、「ハレテラス」の運営と、「いえしまコンシェルジュ」の広報を担当しています。


—— 移住の決め手は何だったのでしょうか。
(中西)採石業によって栄えた歴史やそこに根付く文化が、今も色濃く見て取れる家島の景色に衝撃を受け、「おもしろい」と思ったのがきっかけでした。離島ではめったに見ることができないような大きなビルが並ぶ港付近も、狭い路地をバイクが行き交う様子も、私の目にはどれも新鮮に映ったんです。

(麻田)最初は職探しの一環でこの島のことを知ったので、決め手と言うと現実的な内容になってしまいます。ただ、実際に移住してみて、ここにしかない景色が広がっているのを目にすると「家島に移り住んで良かった」と心から思いますね。

—— お二人とも、「離島」というカテゴリーで移住先を探していたわけではないのでしょうか。
(中西)そうですね。海士町(中ノ島)に行ったりもしましたが、離島に限らず中山間地域にも足を運んでいます。それに、移住先を探していたというよりかは、私がやりたいことや考えていることが実現できる場所を探していた、というイメージの方が近いかもしれません。その上で、私にとっては家島が一番しっくりきたんです。2年間「通い」で関わった後、移住することにしました。


(麻田)私も離島に限定して職探しをしていたわけではありませんでした。それゆえ、島暮らしに対する期待値は良い意味で高くなく、実際来てみてもギャップは少なく済みました。島の人は接しやすいですし、環境も素晴らしいので、むしろどんどん家島のことが好きになっています。

—— 麻田さんは、中西さんに採用される形で移住が決まったそうですね。
(中西)はい。宿泊施設「ハレテラス」を運営していく上で、麻田さんの業界経験が活きると思ったこと、そして麻田さんが撮影する写真の雰囲気がとても良かったことが決め手になり、「ぜひうちに来てほしい」とお願いしました。

私自身話すことはとても好きで、得意でもあるのですが、特にインターネットでの発信となると、高いハードルを感じてしまっていたんです。そうした部分でも、麻田さんには大きな力になっていただけそうだと感じたので、ほぼ即決でした。


(麻田)反対に、私は人前で話すことよりも写真や文章で思いを伝える方が得意で。その点、多くの人の前で話す機会では中西さんはとても頼もしいです。

—— お二人で良いバランスを保てているのですね。理想的な関係だと思います。

それぞれの視点で見つめる家島の魅力

—— 続いて、お二人から見た家島について教えてください。
(中西)本土からのアクセスが非常に良い島ですね。姫路港から30分、姫路駅からでも1時間ぐらいで気軽に来島できます。特に関西在住の方であれば、日帰りでふらっと観光しに来られる距離です。また、必要なものが揃っているのも魅力だと思います。この島には、幼稚園から高校まであるんです。移住にはもってこいの離島じゃないですかね。

(麻田)私には「普段の」家島での暮らしがとても魅力的に映っています。

椿が落ちる様子はまるで絨毯のよう(撮影:麻田さん)

たとえばこの写真。初めて家島を訪れた際に撮ったものですが、椿がこんなにもきれいで、しかも誰にも踏み荒らされていないことに感動しました。あとは、週に一度八百屋さんが野菜を売りにきたり、屋根にツバメが巣を作ったり。些細なことなのですが、都市では最近見ることが少なくなってしまった景色に日々心動かされています。

船で家島にやってくる生鮮食品の小売店(撮影:麻田さん)

—— たしかに、最近軒先でツバメを見る機会は減りましたね。
(麻田)自然環境だけでなく、街並みや文化も同様です。これまで地方のまちづくりにおいては、都市で流行しているものを取り入れて「プチ都会」を作る風潮がありました。その結果、日本全国に画一的な景色が増えてしまいましたが、家島はそうした流れに乗らなかったことがかえって良い方向に働いていると思います。ここにしかない景色や人、文化。このおもしろさは今でも感じることがありますね。

—— 島で不便なことはないのでしょうか?
(中西)移住してから、あまり不便さを感じたことがないですね。それ以上に家島での生活が楽しいのもあるのかもしれません。

(麻田)私、パンはパスコの「超熟」派なんですが、この島ではヤマザキしか選択肢がなくて(笑)。時々「超熟」を買いに姫路へ行っています。ただ、それ以外の部分で不便に思うことはほとんどないです。

「よそもの目線」が活きる観光施策

—— 家島において、移住者としての視点はどのように活きているのでしょうか?
(中西)ガイドの仕事でとても役立っていると思います。私にとってガイドの役割は、「島の人には当たり前になっているモノやコトの面白さを伝えること」です。家島に足を運んでくれた人には、魚屋さんだってアクティビティになるんですよ。


「ハレテラス」はこの島では珍しい、素泊まりの宿泊施設です。これには家島のお店を楽しんでみてほしいという思いも込めています。旅行中の短い期間であっても、家島の「普通」に触れてもらうきっかけ作りがしたいんです。

—— そうした甲斐あってか、観光客も多く来島しているそうですね。
(中西)最近ではテレビや新聞で取り上げていただく機会も多いので、その情報を見て家島へ足を運んでくださる方は多いですね。

—— 観光客にはどういった方が多いのでしょうか。
(中西)関西圏の方がほとんどですね。以前から関西の方は多かったのですが、最近は島内での行動に変化が生まれています。これまで日帰りで来られる方が多かったものの、だんだん島内で連泊していただけるようになってきているんです。

やはり、宿泊していただけることはとても嬉しいですし、「ハレテラス」をオープンしたことでそうした動きが加速したと思うと、プロジェクトを始めて良かったと思っています。

関西ノリであたたかく出迎えてくれる雰囲気

—— インバウンド需要は高まっていますか?
(中西)まだ海外の方がたくさん来ているわけではないのですが、兆しは感じています。実際、「ハレテラス」にはちらほら台湾や中国からのお客様がいらっしゃっています。「和」を感じる内装ですし、大人数の来訪にも対応できるのは、海外のお客様に対する訴求ポイントになるのではないでしょうか。

—— 海外の方は家島でどんな楽しみ方をしていますか?
(麻田)自分でレンタサイクルを借りるなどして、自分なりに楽しんでいるようですね。そもそも日本に来て「家島に行こう!」と思う時点で、行動力はかなりあると思います。レンタサイクルの受付をしているメンバーは英語が話せるわけではありませんが、それでもレンタルできているわけですし。

自転車で観光を楽しむ麻田さんのご友人は、それぞれ米国・スウェーデン出身(撮影:麻田さん)

(中西)見ていると、家島弁と外国語でコミュニケーションをとれているシーンが多いんです(笑)。海外から来た観光客が道に迷っていたりすると、家島の人たちは言葉が通じないながらも助けてくれます。翻訳アプリもないし、互いの言語を使うこともできないのですが、それでもジェスチャーで伝わっているみたいですね。

—— 言語を話せることより、迎え入れてくれる気持ちの方が大切ということですね。良い雰囲気なのが魅力的だと思います。
(中西)ガイドツアーで来られた方を案内していると、道ばたのおばちゃんが話しかけてくることも珍しくありません。井戸端会議の延長のような感覚で、観光客にまで話題が振られるんです。「あんたどこから来たん?」みたいに。麻田さんはよく島の人のことをラテン系だと表現していますが、関西ノリなので楽しいんですよね。

(麻田)本当にその通りで、私は関東からの移住組として特にコミュニケーションの取り方の違いを感じますね。すっと心の距離を近づけてくれて、それでいて互いにとって苦にならないような関係性が作れるんです。移住当初は不安もあったので、島の人たちとの距離感を恐る恐る測っていたのですが、その必要はありませんでしたね。


(中西)中には離島や田舎に対して「知らない間に家に入られてしまう」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、家島ではそんなことは一切起こりません。そうした線引きは確かに存在しているんです。それでいて、「魚やるわ」とか、「野菜あげる」といったイベントは起こるので、理想的なコミュニティだと思います。

—— 観光客も、移住者もすぐに溶け込めそうですね。#2では、移住促進のための取り組みについてお伺いします。

>>#2「移住者を増やすためのSNS施策と宿泊施設の運営」はこちら
>>#3「移住から10年。周囲にもたらした影響とは」はこちら

取材・編集:ハテシマサツキ

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