【坊勢島】私たちが、ブランド魚に力を入れる理由 -坊勢漁業協同組合 上田 章太 #2

坊勢漁業協同組合#2

#1では、ぼうぜ鯖の養殖風景を見せていただきながら、魚のブランド化についてお話をお伺いしました。ここからは、坊勢漁業協同組合の事務所に場所を移しておこなった#2のインタビューをお届けします。

>>#1『「なんでそんなに高いん?」から始まるサバのブランド戦略』はこちら

▼坊勢漁業協同組合 総務部 課長代理 上田 章太氏
1989年生まれ、坊勢島出身。2007年、坊勢漁業協同組合に入職し、ブランド魚「華姫さわら」の振興や漁協主催のイベント運営に取り組む。現在は、共済事業や技能実習生受け入れ等に広く携わりつつ、SNS運用やメディア対応など、広報関連業務の一翼を担っている。

主役は「ぼうぜ鯖」だけではない

—— 普段、上田さんはここでお仕事をされているんですか?
そうですね。共済関連の事務手続きや技能実習生の受け入れ、取材対応などを総務として幅広く対応しています。

—— お忙しい中でも、取材はできるだけ受けるようにしているのでしょうか?
最終的に漁業者の方のプラスになるようであれば、積極的に受けるようにしています。以前は漁協として取材をお受けすることはあまりなかったのですが、「魚の販売につながるなら」と方針を転換しました。


—— 取材後、オンエアや掲載紙面は確認されますか?
できるだけ確認するようにしています。私が映っていなかったとしても、坊勢が取り上げられた報道はチェックし、坊勢島や坊勢の魚がどのように描かれているのかを見ますね。

—— 時には意図と違う表現で報道されることもあるのではないでしょうか。
ありますね。そうした場合には、何が良くなかったのかを振り返り、それ以降の取材対応の際に活かすようにしています。話し方や言い回しによって報道のされ方が変わることもあるので、そうした細かい部分にも気を配る必要がありますね。

—— 具体的にはどんな報道は「されたくない」とお考えですか?
坊勢は全国的に見ても漁船数が多く活気のある漁師町なのですが、その側面を見てお金の話につなげるような切り口の企画はお断りするようにしています。その報道を見て「坊勢の魚を買おう」という広がりがあまり見えないので。取材を受ける際には、最終的に漁業者にとってマイナスになるような切り口ではないかを特に確認するようにします。

—— 漁協としてメディア等で推しているのは、やはりサバなのでしょうか。
サバが主力の存在であるのは確かですが、坊勢にはほかにもハモやサワラ、カニなどの美味しい魚介類がたくさんあるので、そうした魚種にもまんべんなくスポットライトが当たることを願っています。

2隻の船を使って行われるサワラの「はなつぎ網漁」は圧巻(提供:坊勢漁業協同組合)

現状、取材の多くはぼうぜ鯖に関する内容ではあるのですが、漁獲時期から外れたタイミングでの取材申込をいただいた時などには、別の魚種に関する取材への切り替えをこちらからご提案することもあります。

—— すべては「坊勢の魚と漁業者のため」なんですね。続いては、#1でも話題に上っていた漁業体験に関するお話をお伺いします。

家庭から魚食の文化を広げる

—— 漁業体験ではどのようなプログラムを提供しているのでしょうか。
今日乗っていただいた体験見学船「第8ふじなみ」に乗って、姫路のまえどれ市場から漁場へ移動し、操業している漁船のすぐそばで網を上げる様子を見学していただいています。そして、漁獲された新鮮な魚を体験見学船に乗せ、魚種や大きさで魚を分ける「選別」という作業を実際に体験していただきます。その後、お刺身で食べられそうな魚があれば船上でさばき、新鮮なまま召し上がっていただくことが多いです。

漁業体験を楽しむ坊勢の小学生(提供:坊勢漁業協同組合)

—— てんこ盛りの体験ですね!なぜ漁業体験を実施しているのでしょうか。
より漁業を身近に感じていただくことを主目的としています。まえどれ市場が整備されたことにより、坊勢の魚を手軽に味わっていただけるようにはなったのですが、実感をもって漁業について知っていただくためには、実際に体験していただくのがベストだと思いました。特に小中学校の体験学習として人気が高く、小さいうちから魚を食べる習慣を身に付けるきっかけを提供できていると思います。

たとえば、小学生が「今日の漁業体験が楽しかった!」「魚がおいしかった!」と話してくれたら、ご家庭で魚を食べる機会が生まれるほか、坊勢の魚に対するポジティブなイメージも作られるのではないでしょうか。そうやって少しずつ坊勢の魚に対する良い印象が定着していくことを願っています。

—— 漁業体験は個人でも参加できるのでしょうか。
年間10回ほど個人申込可能なツアーを企画しています。サワラ漁の見学や底引き漁の体験など、季節ごとにメニューは変わります。夏場には家族連れのお客様に向け、ツアー中に海水浴を楽しむ時間を確保した海水浴プランも企画しているのですが、これは特に大人気です。

—— 参加料はどれくらいの設定でしょうか。
2024年は食事付きで1人あたり4,000円です。姫路港から坊勢島へのフェリー運賃が往復で2,600円であるということを考えると、とてもリーズナブルな価格だと思います。漁業体験単体で利益を確保するつもりがないからこそできる価格設定です。漁業体験をきっかけに、なにか新しい広がりを作りたいという思いの方が大きいですね。そういった意味では「はなれじま広報部」と同じスタンスかもしれません(笑)


—— たしかにその通りですね!漁業体験の効果を感じるシーンはありますか。
とても身近に事例があります。鰆漁体験を開催したとき、小学生の娘とその友人を一緒に体験へ連れていったことがあって。その回はサワラを漁獲して、船上でさばいて食べる体験でした。

娘はそれまでさわらのお刺身を食べたことがなかったんですが、娘の友達が美味しそうに食べる様子が刺激になったようでして。そこから家でもお刺身を食べるようになりました。この影響は親目線でも嬉しいのですが、こうしたことが各家庭で起これば、魚の消費拡大につながると考えています。

—— とても意義があると思います。最近魚を買って食べる人も少ないですしね。
さらに言えば、魚をさばける人も増やさなければならないと思っています。何しろ自分自身でさばいて食べた方がおいしいので。そういった背景から、はさみを使ったイカの簡単なさばき方を漁業体験でレクチャーしています。難易度は高くなく、お子さんにもさばけるんですよ。

漁業体験の集客はSNSから

—— 一般の方は漁業体験の存在をどのように知るのでしょうか。
多くの方はInstagramの告知をきっかけにお申し込みいただいています。中には、テレビをはじめとするメディアの情報をご覧いただき、漁協のホームページからお問い合わせいただく方もいらっしゃいます。

漁業協同組合として運営するInstagramアカウント

—— SNSはInstagram中心の運用になるのでしょうか。
そうですね。並行してFacebookアカウントも運用しています。Instagramのフォロワー数は約4,000人、Facebookのフォロワー数は約1,500人になります。どちらもお金をかけずに無料で告知や宣伝ができるのが良いですね。時々広告宣伝費をかけてプロモーションをすることもあるのですが、費用対効果の測定が難しいこともあり、試行錯誤はSNS上でおこなうようにしています。

Instagramアカウント:https://www.instagram.com/boze_toretore
Facebookアカウント:https://www.facebook.com/himejitoretore

—— どんな投稿をされていますか?
ぼうぜ鯖の入荷時期を気にされる方は多いので、販売開始のお知らせは欠かさずおこなっています。加えて、漁業体験の空き状況について告知を行うこともありますし、旬のおいしいお魚に関する情報の投稿もしています。本当はもっとたくさん投稿をしたいのですが、正直手が回っていないのが現状です。

—— どのようなコンセプトでSNS運用をしているのかお聞かせください。
文章で魅力を伝えるよりも、写真メインで魚を「おいしく映す」ことに主眼を置いています。あとはイベント告知やメディア露出の情報を積極的に配信することで、興味を持ってもらえるようなきっかけ作りをするよう心がけていますね。ちなみに、Instagramでの最初の投稿は「かきフェア」の告知でした。

—— ターゲットはどのような層に設定されていますでしょうか。
実はそこまで絞っていません。お魚を食べる方は老若男女問わず分布しているので、まずはできるだけ広く坊勢やお魚のことを知っていただけたらと思っています。SNS運用のゴールも漁業体験へのお申し込みだけではなく、まえどれ市場でのお食事やお土産購入など、多岐にわたると考えています。まえどれ市場のオープンから8年近く経ちます(取材時点)が、姫路の方でもまだ知らない方も多いので、とりあえず知っていただくことから始めたいと思っています。

あとは、これまでスーパー以外の場所で販売されているお魚に触れる機会がなかった方に対しても、おいしさという側面からアプローチして、もっと積極的に魚を食べるようになっていただけたら良いですね。そしてそのまま、「坊勢の魚なら安心して買える」というところまでつなげられるのが理想です。その段階になれば、スーパーの魚よりも販売価格が高かったとしても、価値を評価していただけると思います。

—— やはり価格では勝負しないのですね。
仮に価格を抑えてたくさん量が売れたとしても、漁業者の手元に残る金額は少なくなってしまいます。反対に言えば、漁協の役目は「高くても買ってもらえる」ブランディングをおこなうことだと思っています。全体的に漁獲量が減っているいま、収入を安定させるためには価格を安定させるしかないですね。


—— 漁協としての役割は「坊勢の魚」全体のブランディングだと。
ご自身で魚のブランド化を行い、販路を拡大している漁業者の方もいらっしゃいますが、漁協としては、そのような取り組みをおこなっていない方にもメリットをもたらしたいと考えています。

そのためには、まず坊勢の魚全体の人気や需要を底上げして、「坊勢の魚」というだけで付加価値を付けられるようにしなければならないでしょう。私たちにできることがPRである以上、魚全体の人気につながるような施策を行う必要性を感じています。

春夏秋冬の年4回、魚の旬に合わせて開催されるイベントもその一環です。毎回多くの方にご来場いただき、おいしい海鮮を味わっていただいています。中でもぼうぜ鯖(秋)や牡蠣(冬)が振る舞われる回は人気で、無料試食に長蛇の列ができるほど賑わいました。

人手不足でも、できるチャレンジを

—— うまくいっているように見えるのですが、課題はありますか?
魚の新しい販売先を見つけるのは難しいですね。多くの箇所に卸すことで魚の価格を安定させることができるので、出来る限り取引先を増やしていきたいです。ただ、サワラ等の魚で顕著なのですが、地域によって食文化や消費量が大きく変わることもあるため、販路拡大が難しい側面もあります。


加えて、漁業者の人手不足が顕著になっているのも課題のひとつです。いちから漁師を始めるとなると多額の初期投資がかかってしまいますし、積極的に雇用をしている漁業者も少ないことが背景にあります。そして、漁協でも人手不足の問題は深刻です。もう少し人手に余裕があれば新しいことにチャレンジできるのですが、現状難しいですね。

—— そんな中、今後進めていきたい取り組みはありますか?
現在はカキの試験養殖をしています。カキをカゴに入れて育てる「シングルシード式」という方式を採用し、漁協の青年部に所属している方に手伝っていただきながら、試行錯誤を続けています。今のところカキは順調に育っていますが、近海からより栄養のある場所に移してカキの身をふっくらさせることも検討しています。シングルシード式のカキ養殖はイニシャルコストがあまりかからず、手軽に始められるのが特徴です。

—— これからに期待大ですね!上田さん個人として今後したいことはありますか。
私が命名した「華姫さわら」が全国に羽ばたいてくれることを願っています。知名度が上がった時に、「あれはあいつがやったんやで」という功績を残せたら嬉しいですね。試験中のカキ養殖も私の担当なので、こうした取り組みがゆくゆく漁業者の売上につながっていけばと思っています。

—— 漁業者の方や魚のことを真剣に考える姿に感銘を受けました。本日は貴重なお話ありがとうございました!

>>#1『「なんでそんなに高いん?」から始まるサバのブランド戦略』はこちら

取材・編集:ハテシマサツキ

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