【淡路島】楽天を起爆剤にした玉ねぎ農家の「選択と集中」 –株式会社今井ファーム 今井 剛 #1

今井ファーム#1

はなれじま広報部では、離島における広報やECサイト運用の事例を元に、離島のこれからを紐解いていきます。今回は、株式会社今井ファームで代表を務める今井 剛さんにインタビューを行い、2本立ての記事を制作しました。#01では、「玉ねぎ農家としてのEC戦略」をお聞きしました。

▼株式会社今井ファーム 代表取締役社長  今井 剛氏
兵庫県淡路市出身、淡路島で生まれ育つ。2002年、佐川急便株式会社に入社し、セールスドライバーとして10年間勤務。同職を退いた後、先代とともに2代目として今井ファームの運営に携わることに。2018年からは既存事業の拡大に伴って設立した「株式会社今井ファーム」で専務取締役を務める。

たゆまぬ努力の結晶、今井ファームの「かくし玉」

—— 今井ファームの事業内容を教えてください。
自社ブランドの玉ねぎ「かくし玉」の生産を軸に、関連商品の開発や加工、実店舗・ECサイトでの販売まで担っています。従業員数は15名程度。玉ねぎの生産や出荷対応に加え、受注やお問い合わせ対応にあたっています。

—— 淡路島は玉ねぎの生産で有名ですね。他の産地で栽培されるものとの違いはありますか?
瀬戸内の気候は温暖で、海が近いことから海水に含まれるミネラルも風に乗って飛んできます。そうした環境で育った淡路島の玉ねぎは、とても甘く肉質がやわらかいのが特徴です。もちろん野菜なので辛みが全く無いわけではないのですが、私たちが栽培する玉ねぎの糖度はみかん並なんですよ。

玉ねぎ畑

「今井ファーム」事務所前には玉ねぎ畑が広がる

—— みかんと同レベルの糖度なんですか!?たしかに甘みが強いイメージがあります。
そうなんです。3月上旬から収穫が始まる極早生(ごくわせ)や、4月上旬以降収穫の早生(わせ)の玉ねぎは、ぜひ生でそのまま食べてみてほしいですね。それ以降に収穫される品種も、加熱すると甘みが増すのでオニオンステーキやオニオンスープに最適です。

—— 淡路島の玉ねぎは、ブランドとしての商品力もあるように思います。
メディアに取り上げられるようになってからというもの、淡路島の玉ねぎのイメージは日本全国に広まりました。他の産地で栽培される玉ねぎと比較して単価も高く、唯一無二の地位を築いていますね。正直なところ、同じ品種を別の場所で栽培したとしても、ブランドイメージを使えないので、販売戦略に苦労する部分は大きいと思います。

—— ブランド力、大切ですね。「かくし玉」というブランドは今井ファームだけで使っているのですか?
自社だけです。「淡路島の玉ねぎ」というブランドも活用するのですが、その中でもさらにこだわって栽培した玉ねぎであることを示す意図があり、自社生産の玉ねぎを「かくし玉」として世に出すことにしました。

肥料メーカーと協力して「かくし玉専用」の肥料を開発し、元肥(植え付けの際に与える肥料)や追肥として使っています。肥料のバランスで玉ねぎの味が大きく変わるので、これは「かくし味」とも言えます。

—— そういう意味でブランド名を名付けたんですね。
そうなんです。あとは「隠れた努力の結晶」という意味も込めています。「かくし玉」は、私たちが長年にわたって続けてきた玉ねぎ栽培の集大成ともいえる玉ねぎです。自社栽培の玉ねぎはすべてこのブランドで統一。一本勝負というわけです。

すべてのはじまりは、楽天から。

—— 玉ねぎの販路を教えてください。
自社のオンラインショップや複数のモール型ECサイトに加え、高速道路のサービスエリア、道の駅などオフラインでの販売もしています。加えて、「成城石井」「阪急オアシス」「北野エース」など高級路線のスーパーへの卸売も行っていますね。

SAに並ぶ今井ファームの商品

淡路サービスエリアに並ぶ今井ファームの商品

—— 百貨店での催事にも参加されているとお伺いしました。
名古屋にある百貨店「ジェイアール名古屋タカシマヤ」の催事には複数回呼んでいただいています。普段、直接消費者の声に触れる機会がないので、生の意見を聞ける貴重なチャンスだと思って私も毎回参加しています。

—— これだけ販路を拡大された最初のきっかけは何だったのでしょうか。
モール型ECサイト「楽天市場」への出店でしたね。多くのお客様に玉ねぎや関連商品をご購入いただき、口コミが広がる中、バイヤーさんからお声がけいただくことも多くなり、次第に販路が拡大していったイメージです。私たちは直販する実店舗を持たないので、「ネットしかない」と思い立ちました。

—— そこから現在、8つ以上のモール型ECサイトに出店されていますね。複数のチャネルに参入している理由はありますか。
「間口を広げるため」です。各サイトによって客層や人気の商品は大きく異なります。一人でも多くのお客様に今井ファームの玉ねぎを手に取っていただくため、チャンスがあれば積極的に参入するようにしています。複数のECモールに出店することで、リスクヘッジにもなりますしね。


—— ふるさと納税の返礼品としても人気を集めているそうですね。
そうですね。ふるさと納税制度を利用する方が増え始めた頃から、玉ねぎやカレー、ハンバーグなどをラインナップしています。たくさんの方に今井ファームを知っていただくきっかけになっているので、今後もひとつの販売チャネルのような感覚で続けていくと思います。

—— ふるさと納税の出品にはリソースがかかるのではないでしょうか。
ちょうど良い面倒くささですね(笑)制度が濫用されないようなラインで、それでいて手間がかかり過ぎず。返礼品が溢れかえらないようにするためのストッパーのように機能しているように思います。

—— ただ、各サイトの販売管理やお問い合わせ対応には多大なリソースがかかるように思います。
そうですね。特にECでの展開を始めた当初は、玉ねぎ生産のかたわら、注文や問い合わせに少人数で対応せざるを得なかったので、非常に大変でした。今は最適な人員をそこに配置して、業務全体の効率化を図っています。

丁寧な顧客対応で「2回目」につなげる

—— ここまで拡販に成功したのはどういった要因があるとお考えですか。
結局のところ、お客様にしっかりと向き合い、良い玉ねぎを作り続けることが鍵になっていると思います。「かくし玉」は、ひとつひとつ手作業で検品しながら箱詰めしているのですが、そうした手間を惜しまないことで、高品質な玉ねぎを提供し続けることができるんです。その結果、「また今井さんのところから買おう」と思っていただけています。

—— 生鮮食品ということもあってクレームも多いのではないでしょうか。
いえ、クレームはほとんどありません。ごく稀に玉ねぎが傷んでしまったというケースを聞くことはありますが、そういった場合も「野菜なので仕方ないです」と言うことは決してありません。まずは丁寧に謝罪して、そこから必要な対応を迅速に行います。

—— 他にも、2度目の購買につながるような工夫はありますか。
商品を出荷してから1週間後に「品質はどうでしたか?」という内容のメールを送っています。もし気になることがあった時にも連絡しやすくしているんです。加えて、レビューを書いていただいたお客様を対象に、次回以降で使えるクーポンの配布も行っています。1回限りではなく、末永く購入いただくためには、こうした地道な施策が重要だと実感しています。

—— 安全面にも気を配っているそうですね。
はい。安心して玉ねぎを食べていただけるよう、情報を積極的に開示するようにしています。玉ねぎは毎年検査機関に出し、残留農薬のチェックをしています。販売時に義務づけられているわけではなく、費用もかかるのですが、やはりお客様から信頼していただくためには大切なことだと思っています。

ターゲティングと訴求方法

—— 楽天のレビューを拝見したところ、40代以上の方が多いように見受けられました。ターゲット層をお聞かせいただけますか。
まさに、主に40代から60代くらいの方をターゲットとして設定し、マーケティング施策を打ち出しています。実際、お客様の層は40代以上の方が約8割にも上ります。

—— その層をターゲットとしたのにはどういった意図がありますか。
「ちょっとお金を出しても良いものを食べたい」というニーズに応えるためです。子育てが終わって金銭的なゆとりが生まれたご家庭や、健康に気を使うようになった方など、価格面以外の部分に魅力を感じてくださる方に訴求しています。

それに合わせて、ECサイトの商品ページも設計しました。商品の価格ではなく、購入後のイメージがつくようなコンテンツや、玉ねぎ栽培のストーリーを掲載するようにしています。


—— ターゲット層に向けた最初のアクションはどのように起こされましたか。
GoogleやYahoo!などのブラウザ広告です。ECサイトオープン当時はSNSを利用しているユーザーが少なかったので、必然的にブラウザ上での戦略が重視されていました。広告の費用対効果を測定しながら、訴求方法を試行錯誤してきたイメージですね。

—— 最近ではSNS施策も行われていますか?
いえ、公式LINE以外でSNSの公式アカウントを持つことはしていません。やはりターゲット層の年齢が比較的高いこともあり、InstagramやXとの親和性はあまり良くないんです。その代わり、人気ブロガーを起用したマーケティング施策を現在進行形で企画しています。

「選択と集中」で主要事業を伸ばす

——ECサイトやLPなど、WEB上のクリエイティブは内製しているのでしょうか。
基本的にすべて外注しています。写真撮影やLP(ランディングページ)の制作、商品ページ作成など、すべきことは多岐にわたるので、自社内だけでは手が回りません。

そんな中、楽天市場の担当者の方に委託先の事業者を紹介していただいて以降、同じ事業者に発注をしています。楽天が紹介していることで、安心してページの作成を任せられています。メルマガの作成やLINEでの対応も外注ですね。モール型のECサイト運営は、各領域が得意な知人に委託しています。

—— できるだけ外注化することで、主要事業に注力しているんですね。
そうですね。近年、生産・加工・販売まで一貫して行う「6次産業化」推進の流れがありますが、「言うは易く行うは難し」だと痛感しています。農作物の生産だけでやることは多いですが、それに加えて加工や販売…となると到底これまでのリソースでは乗り越えられません。

そのため、今井ファームでは製品加工の部分やクリエイティブの制作を外部に委託することで、玉ねぎを「作る」ことと「売る」ことに集中しています。私たちはこの2つのジャンルが得意だったのでこうした選択をしていますが、他の事業者だとその組み合わせは変わってくるでしょうね。

サイト内には鮮やかなバナーが並ぶ

—— 反対に、事業規模が拡大しても外注しない部分はありますか。
自社の畑で玉ねぎを作ることですね。品質の担保はもちろんのこと、自社で「かくし玉」を生産しているからこそ生まれるストーリーがあると思っています。仕入れて販売するだけになって「生産者の顔が見えない」という状況にしたくないんです。これからも自社生産については譲らないと思います。

—— 大変学びになります。#2では、毎年欠かさず発表している新商品の開発に関して、今後の展望と合わせてお伺いします。

あれもこれも…とこだわり過ぎると、どれもが中途半端になってしまうこともあります。選び取ったものを伸ばしていくためにも、選択と集中は必要不可欠だと強く感じました。これは次の記事でお伺いする商品開発のお話にもつながっていきます。

>> #2「毎年新商品を発売!収益を生む商品開発のススメ」はこちら

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