【向島】低収益のビジネスモデルを覆した、付加価値を生み出すコラボレーション – 後藤鉱泉所  森本繁郎 #2

後藤鉱泉所#2

「はなれじま広報部」では、広報戦略やECサイトの観点から、離島を振興するための実例やノウハウについてご紹介しています。

今回は、後藤鉱泉所の代表を務める森本さんにお話を伺い、3本立てのインタビュー記事を制作いたしました。#02では、客単価が低いという課題解決のために森本さんが行った取り組みや、ヒット商品となった「怪獣レモンサイダー」誕生のきっかけについて詳しくお伺いします。

>>#1「受け継がれた“幻のサイダー”の味を守るために」はこちら
>>#3「体験と提供価値にこだわった店舗運営。老舗サイダー工場が目指すこれから」はこちら

▼後藤鉱泉所 四代目代表 森本 繁郎氏
1977年生まれ、広島県豊田郡大崎上島町出身。2021年3月に竹原市役所を退職し、同年4月に後藤鉱泉所を事業継承する。先代が守ってきたサイダーの味を大切にしつつ、「怪獣レモンサイダー」をはじめとする新商品を続々と開発するなど、次なる担い手にバトンを繋ぐため積極的に試行錯誤をしている。

人気店でも売上はわずか。客単価を上げる「何か」が必要だった

—— #1では、主に後藤鉱泉所を事業継承されるまでのお話についてお伺いしました。継承後、課題などはあったのでしょうか。
課題はもちろんありました。最も大きいのは客単価が低く、来客数に対する利益が思うように上げられていなかったことです。全国放送のテレビでも放送されているし、観光客も多く来ているのに後継者がいないのはなぜだろう?と不思議に思っていましたが、実際の数字を見て、そういうことか…と納得しました。

コロナ禍の影響を受けつつも、当時1ヶ月あたり1,000人を超える方に来ていただいてはいたのですが、それに見合うだけの売上が上がっていなかったんです。率直な感想では、そのまま事業を存続していくのは難しいように思いました。

—— 月1,000人以上も来ているのに!?どうしてそんなことが起こるんでしょうか。
後藤鉱泉所が売りにしている昭和体験の要でもあるのですが、飲み終えた後に回収する必要のある「リターナブル瓶」を使用していたことで、商品を持ち帰っていただくことができなかったんです。そうなると、購入してからその場で飲料を飲み切らなければなりません。

しかし、中には一人で一本のサイダーを飲みきれないという方もいらっしゃいます。そこで、二人で一本、三人で一本など、複数人でシェアされるお客さんが多かったんです。リターナブル瓶を使った商品展開を核とした販売手法を1ヶ月程度継続しましたが、せっかくの来店者数を活かせていないという感覚は常にありました。

売上は来客数×単価で決まります。来客数のハードルは越えていたので、いかにして客単価を向上させるか考えるようになりました。この状況を打破する「何か」を探していたんです。

 

付加価値を生んだ「怪獣レモン」×「マルゴサイダー」のコラボ

—— この状況から客単価を上げるため、どういった施策を行ったのでしょうか?
株式会社瀬戸内百姓の山岡さんから、「自社製品の『怪獣レモン』とコラボした商品を開発したい」というお話をいただいたことをきっかけに、新商品の開発に乗り出すことにしました。

山岡さんは、皮に斑点や傷などがあることで規格外となってしまったレモンを怪獣に見立て、「怪獣レモン」として付加価値を付けて販売することに成功しています。

どうにかして客単価を上げたい私の考えと、レモンに付加価値を付けたい山岡さんの思いがマッチして、コラボサイダーの開発はトントン拍子に進みました。2021年の春ごろにお話をいただき、6月には商品化。異例のスピードでの開発でしたが、今では後藤鉱泉所の売上1位を誇る大ヒット商品です。

—— 山岡さんとの出会いは、まさに渡りに船でしたね!「怪獣レモンサイダー」はどんな商品ですか?
マルゴサイダーをベースに、すっきりした味わいが特徴の瀬戸田産レモンを10%配合し、爽やかな味わいを実現したサイダーになります。コンセプトは「マルゴサイダーにレモン果汁を加えた飲料」というシンプルなものでしたが、イメージ通りの商品ができました。

ちなみに第二弾もあって、こちらは2021年末発売の「怪獣グリーンサイダー」です。レモンが完熟する前のグリーンレモンを手絞りして、サイダーに加えています。1商品あたり半個以上のグリーンレモンを使っているので、蓋を開けると爽やかな風味が感じられます。ひとつひとつ丁寧に生搾りしているので、果肉感が感じられるのも特徴です。

怪獣レモンとのコラボ商品の第二弾となる「怪獣グリーンサイダー」

—— わずか数ヶ月で商品を開発。さらに、1年足らずで第二弾の開発までされるスピード感に圧倒されます。その後も続々とコラボ商品を開発されているとお聞きしました。
瀬戸田産のみかん果汁を使った「みかん」や、向島産の生姜(おのみち潮風生姜)を用いた「尾道ジンジャーエール」、近隣の岩子島で育ったトマトを加えた「岩子島トマトサイダー」など、さまざまな商品を開発しています。

中には、尾道出身の文豪・林芙美子さんの絶筆作品「めし」の一節に登場するサイダーの味を再現した「尾道文学サイダー 林芙美子編」など、一風変わったコラボ商品もあります。

—— 特産品のみならず、文学作品をモチーフにした商品まで開発しているんですね。
そうなんです。実は尾道は文学の町なんですが、あまり知られていないという現状があります。「尾道文学サイダー」は地元書店の「啓文社」とコラボした商品で、「文学の町」にスポットを当てたいとの思いから誕生しました。

—— 続々と新しいサイダーが誕生していますね。コラボレーションをする際、条件などを設けているのでしょうか?
私どもの「地域の宝を、地域の力に。」というビジョンに共感していただけるかどうかを一番大切にしています。反対にその志の部分以外については特に条件を設けているわけではありません。共感できる仲間が集まって、地域を盛り上げることができたら良いですね。

地元企業とのコラボレーションによって生まれた商品

持ち帰りニーズに対応するため、瓶を変更することに

—— コラボ商品の開発は、客単価の向上につながったのでしょうか?同じように数人でシェアされてしまう気もします。
それを想定して、使い切りができる「ワンウェイ瓶」の採用も同時に進めました。ワンウェイ瓶を使うようになったことで、飲料をお土産用としてご購入いただくお客様のニーズを満たせるようになったのは、かなり大きかったです。

中には全種類の商品を購入される方もいらっしゃいました。コラボ商品のヒットと合わせ、ワンウェイ瓶の導入は1人当たりの客単価向上に一役買っています。リターナブル瓶のマルゴサイダーはそれまでと変わらず、その場で飲んでいただく際にお出ししています。

—— 飲む場所と用途によって瓶を使い分けているんですね。しかし、「幻のサイダー」をお土産用にすることには葛藤もあったのではないでしょうか。
そうですね。先代が守ってきたマルゴサイダーをワンウェイ瓶に詰めて販売するかどうか、という部分には頭を悩ませました。「幻のサイダー」と言われるサイダーが、この場所以外でも飲めるようになってしまう…と。しかし、マルゴサイダーの味をもっと世間に知っていただく方が大切だと考え、ワンウェイ瓶の採用に踏み切りました。

—— ワンウェイ瓶を使うと、ECサイトでの販売もできるようになりますね。
そうですね。実際、後藤鉱泉所ではBASEを使ってECサイトをオープンさせました。基本的には、現地でサイダーをお楽しみいただいた方が、家に帰ってから「もう一度飲みたい」と思ったタイミングで利用していただくことを想定しています。

また、テレビ番組で後藤鉱泉所が取り上げられたタイミングでも、多くのご注文をいただきました。ワンウェイ瓶の採用とECサイトの立ち上げで、遠方に住んでいるお客様のニーズを取りこぼさないようになったことを実感しました。正直なところ、ECサイトでの売上は店頭に比べるとまだまだですが、これからも商品の掲載は続けていこうと思っています。

—— コラボ商品の開発やワンウェイ瓶の採用、ECサイトでの販売などの施策により、売上はどのように変化しましたか?
売上は大きく向上しました。2021年度から2022年度にかけて、2年間でおよそ5倍にまで飛躍しています。ワンウェイ瓶を採用したことで持ち帰りニーズに応えられるようになり、客単価が上がったことが最も大きい要因だったと思っています。

 

—— 課題であった売上が、2年で5倍に…!伝統の味を守りつつ、提供方法を変えることで転機が訪れたんですね。#3では、客単価を向上させるための売り場づくりと、情報発信の手法についてお伺いします。

>>#1「受け継がれた“幻のサイダー”の味を守るために」はこちら
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