【小豆島】公益性と収益性のはざまで考える、道の駅としての役割 – 道の駅小豆島オリーブ公園 佐伯 哲 #1

小豆島オリーブ公園#1

「はなれじま広報部」では、広報戦略やECサイトの観点から、離島を振興するための実例やノウハウについてご紹介しています。

今回は、道の駅小豆島オリーブ公園で営業推進部の部長を務める佐伯哲さんにお話を伺い、3本立てのインタビュー記事を制作いたしました。#01でお話いただいたのは、道の駅小豆島オリーブ公園の沿革や運営方針について。道の駅の中でも珍しい運営形態を取る同施設の運営方針をお伺いしています。

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取材にお応えいただく佐伯さん

▼道の駅小豆島オリーブ公園 営業推進部 部長 佐伯 哲氏
1976年生まれ、小豆島出身。大学卒業後、リゾートホテルでの勤務やコンサルタントとしての業務経験を積み、2011年からは一般財団法人小豆島オリーブ公園に勤務。仕事は『楽しむ』がモットー。

「オリーブの島」の魅力を伝える施設

—— まず、道の駅小豆島オリーブ公園のこれまでについて教えてください。
小豆島は、1907年から開始された国産オリーブの試験栽培に始まり、長らくオリーブの島として知られてきました。しかし、観光客の方から「オリーブの島という割にはオリーブが少ない」というお声をいただいたことをきっかけに、1984年、香川県と内海町(旧町名)がオリーブをテーマにした公園を整備しました。

1990年には、県と町がそれぞれ保有していたエリアを統合し、「小豆島オリーブ公園」としてオープン。そして1996年、道の駅登録を受けることとなりました。

—— オリーブ公園はどのような施設なのでしょうか?
オリーブの木やギリシャ風の建物とともに写真を撮っていただけるほか、展示や四季折々のイベントを通じて、オリーブについて学びを深めていただけます。オリーブ製品をはじめとした小豆島の品々を集めたショップやレストラン、温泉もあるため、老若男女誰もがお楽しみいただける施設です。

運営方針の変化と、バランスを取ることの難しさ

—— 現在に至るまでの、運営面での変遷を教えてください。
当財団は1989年、オリーブ振興による地域活性化を目的とした財団法人内海町オリーブ公園振興公社としてスタートしました。以降、官民一体となった取り組みを続け、オリーブは食品産業としてだけではなく、観光資源としても地域に欠かすことができない存在へと成長していきます。

それに伴い、当財団には小豆島観光における吸引力を担う役割が強く求められるようになりました。そして、観光地として整備を進める上で収益部門の強化は不可欠であるという観点から1996年には道の駅としての登録を受け、その後一般財団法人へと移行しました。

—— 一般財団法人に移行する中で、公園の運営方法や目標にも変化はあったのでしょうか?
そうですね。少し複雑な話になるのですが、一般財団法人化以降は、オリーブの振興・啓蒙に加え、収益の追求という2つの軸で道の駅の運営を行うようになりました。それらの軸を分けて考えることもありますし、混ぜ合わせることもあります。これをきっかけに運営方法に多面性がもたらされたんです。

例えば、オリーブの振興を目的としたイベントでは、収益性を追求することはあまりしません。あくまで地域の方々と交流を深めつつ、オリーブに親しんでもらうことに徹します。

—— たしかに、「オリーブ収穫祭」の体験料はとてもリーズナブルですね。
そうなんです。オリーブ収穫祭は秋に開催されるオリーブ振興イベントなのですが、500円という料金で、収穫から絞りたてのオリーブオイルを飲むという体験までお楽しみいただけます。

オリーブを収穫する親子

「オリーブ収穫祭2023」で行われた収穫体験の様子

その一方で、「魔法のほうき」としてほうきを無料レンタルしていることは、直接オリーブの振興につながるものではなく、お客様に訪れていただくための、いわば集客としての施策です。

こうした公益性・収益性の二面を同一軸で考えてしまうと、目的や施策の方針がぶれてしまいます。そのため、それらは全く別の考えとして扱う必要があるんです。実際、財団法人ではオリーブの振興・啓蒙の活動と収益事業で会計を分割しています。

—— 2つの目的が合わさったイベントもあるのではないでしょうか?
もちろんあります。集客をしながら、オリーブの振興や啓蒙を目指すというイベントですね。ただ、二兎を追うのはとても難しいのが現実で、イベントごとの目的を明確にしておくことが必要不可欠だと思っています。

たとえば、「高校生レストラン」というイベント。島内の高校生にランチを作ってもらい、それを島内在住の方や観光客の方に楽しんでいただく催しです。料理を通してオリーブの振興をするのが目的ではあるのですが、施設内のレストランを1日まるまる使う以上、やはり収支についても考える必要が出てきます。

ただ、収益を追い求めていくと、どうしても原価を抑えたり、販売単価を上げたりしなければならなくなります。場合によっては来客数を増やす施策をすることにもなるでしょうね。

収益性だけを追い求め過ぎると、やはり本来のオリーブ振興という目的から遠ざかってしまいます。イベント目的と収益性のバランスをとった価格設定や客席数、運営方法を考えなければならないんです。実際、高校生レストランでは1,000円という料金をいただきつつも、提供する食事を限定90食として落ち着いてランチを楽しんでもらうことで、本来の目的が失われないようにしました。

高校生レストランのチラシ

2023年12月に開催された「小豆島中央高校生レストラン」のチラシ

—— 収益を追求しないことで、「赤字」になる部分もあるのではないでしょうか。
もちろんトータルバランスはきちんと取るようにしていますが、部分的にいわゆる「赤字」になることはあるでしょうね。ただ、収益を追求しない部分を「赤字」と捉えるか、「還元」と捉えるかで見え方は変わってくると思っています。

私たちが道の駅小豆島オリーブ公園の指定管理団体として、小豆島町と香川県から指定管理料をいただいている以上、この施設を訪れた人や地域に対して「還元」をしなければなりません。そうした意味では、ひとつの会計だけピックアップして「赤字」と呼ぶのは適切ではないと思っています。

—— 地域に還元するという役割も重要だということですね。それでは、ここからは目線を「小豆島」という地域に移して、お話をお伺いします。

「○○の小豆島」を使い分けられる強み

—— 小豆島の来島者はかなり多い印象ですが、島としての強みはどこにあるとお考えですか?
「船に乗って島に行く」という体験を手軽に得ることができることに尽きますね。小豆島って、立地が素晴らしいんです。香川県の高松港から高速船を使えば35分ほどで来島できて、運賃も片道約1,200円とリーズナブル。フェリーに乗れば、所要時間が1時間になるものの、片道700円で渡ることができます。

小豆島行きのフェリー

兵庫県・姫路港と小豆島を結ぶフェリーも就航している

一般的には、離島に対して「時間とお金がかかって行きづらい」というイメージがあると思います。しかし、小豆島には手軽かつ安価に渡れることから、日帰りで来られる方も多いんです。島内のお店も多く、食や買い物に困ることもありません。普通の生活はできるものの、非日常感を味わうことができる、ちょうど良い離島だということですね。特に観光産業が盛んな離島となると、こんなに条件が良い場所は全国的にも珍しいのではないでしょうか。

—— その通りだと思います。私たちは大阪近郊から来たのですが、それでも近いと感じました。
そうですよね。それゆえ、この島は「香川県の小豆島」にも、「四国の小豆島」にも、「瀬戸内の小豆島」にもなり得ると思っています。場合によっては、今触れていただいたように「関西の小豆島」と言うこともできるでしょうね。小豆島はすべてのエリアをつなぐハブになることができるポテンシャルを持っているんです。

—— そう聞くと順風満帆に見えますが、課題もあるのでしょうか?
利便性が高いが故に生じている課題があります。それは、観光客の日帰り化です。やはり観光という観点で見ると、宿泊滞在していただいた方が経済効果が生まれるのですが、高松周辺に新たなビジネスホテルが多くできたこともあり、小豆島が「寄る」対象になってしまっている側面があります。

日帰りできるとはいえ小豆島は広いので、日帰り化が進むことで島内の奥にあるエリアに足を運ぶ人が少なくなってしまうという問題も生まれていますね。

小豆島流の広報とプロモーション

—— そんな中、観光に関連してメディア向けの発信などはされていますか?
オリーブの振興に関する内容についてはプレスリリースを出すようにしているものの、観光プロモーションを主眼とするリリースはしていません。メディアとの関わりは「広報」にあたるので、公共性や報道性を加味して配信するかどうか決めるというイメージですね。

—— そうなると、収益性を求める要素として、メディア以外に対して観光に関するプロモーションをしているのでしょうか?
そうですね。特に観光という観点では、私たちがひとつの事業体として広告・宣伝をするのではなく、島全体でプロモーションをしています。いくら私たちだけでプロモーションをしたとしても、観光客が訪れるのはオリーブ公園ではなく、小豆島です。私たちの力だけでは、施設はおろか島にすら来ていただけないんです。

佐伯さん

そうした背景から、宿泊施設や観光施設、フェリー会社などからなる組織を結成して、東京や大阪で商談会をしたり、プロモーション動画を作ったりしています。結局はまず小豆島に来てもらわなければならないので、「うちがうちが!」という雰囲気ではなく、協力する土壌が出来上がっていますね。

—— インバウンドの集客にも注力しているのでしょうか?
それは香川県として力を入れている部分が大きいですね。動画を作ったり、補助金制度を作ったり。もちろん私たちも、「香川県の小豆島」として協力しています。そして実際そうした施策の成果も出てきて、インバウンドの方々に来ていただけるようになってきています。

—— 多角的に戦略を考えられるのは、やはり地の利が活かされていますね。
そうですね。同時に、香川県や四国全体としても、小豆島を観光資源として有効活用しているイメージです。2025年には大阪で万博も開催されるので、そのうち「関西の小豆島」になっているかもしれません(笑)

#2では「魔法のほうき」で話題になったSNS活用術を深掘り!

ここまで、道の駅小豆島オリーブ公園の佐伯さんに、道の駅としての役割や方針についてお伺いしてきました。#2では、今や小豆島の代名詞ともいえるフォトジェニックスポットが生まれるまでのお話や、SNS戦略についてインタビューしています。

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