今回、はなれじま広報部が向かったのは、瀬戸内海東部の家島諸島に位置する坊勢(ぼうぜ)島。ここは、島名を冠したブランド魚「ぼうぜ鯖」の養殖が行われていることで知られています。
取材当日はサバの養殖場を見学させていただいた後、坊勢漁業協同組合の上田章太さんから、ブランド魚を世に送り出す理由や、漁業体験を行うことで生まれる効果についてお伺いしました。#1の本記事では「ぼうぜ鯖」のブランド化や、その先の展望に関するインタビューをお届けします。
▼坊勢漁業協同組合 総務部 課長代理 上田 章太氏
1989年生まれ、坊勢島出身。2007年、坊勢漁業協同組合に入職し、ブランド魚「華姫さわら」の振興や漁協主催のイベント運営に取り組む。現在は、共済事業や技能実習生受け入れ等に広く携わりつつ、SNS運用やメディア対応など、広報関連業務の一翼を担っている。
漁業体験見学船「第8ふじなみ」に乗せていただき、坊勢島から約10分。島の東側、西島との間に位置する「いけす」に案内していただきました。船が向かう先には、次第に黄色や青色のカラフルないけすが見えてきます。円に近い八角形をしているのは、魚がぶつからず泳げるようにするためだとか。
ここで行われるのは「ぼうぜ鯖」の養殖です。播磨灘で漁獲された種苗(稚魚)はここで育てられ、例年11月頃から翌年5月にかけて全国へ出荷されます。今日はいけすでの餌やりを見学しながら、ぼうぜ鯖について上田さんに教えていただきます。
「なんでそんな高いん?」から始まるブランド魚の展開
—— ぼうぜ鯖とはどんな魚なのでしょうか。
坊勢漁業協同組合にて養殖されるサバです。2007年、個々の生産者がそれぞれのブランド名で販売していたサバの名称を統一する形で誕生しました。新鮮なカタクチイワシを餌として与え、できるだけ天然魚と同じ環境で育てることによってもたらされる、脂ののりと味が特徴です。
—— とても勢い良く泳いでいますね。
今ちょうどいけすに船を横付けして餌やりをしているので、サバが水深の浅いところまで上がってきているんです。船上から専用の機械を使って餌をまくと、水面が波立つので分かりやすいですね。
いけすに餌をまくと、サバの大きな渦ができる(提供:坊勢漁業協同組合)
—— ここでは稚魚からサバを育てるのでしょうか。
そうですね。種苗として漁獲したサバは専用の船を用いて泳がせたまま、いけすに移されます。一般的には、よく泳ぎ回る青魚は活魚として扱うのに向かないのですが、ぼうぜ鯖については輸送方法が確立されているため、養殖時はもちろんのこと、消費地まで活きが良いまま運ぶことができるんです。
魚を活かしたまま海上輸送するための専用設備
—— 一般の方はどこでぼうぜ鯖を楽しめるのでしょうか。
姫路市内(本土側)、漁協直営のフィッシュモール「まえどれ市場」ではぼうぜ鯖を使ったお料理やお刺身を味わっていただけるほか、発送も承っています。翌日到着する場所であれば、到着後お刺身で召し上がっていただけます。
—— 近海は県下有数の漁場として知られますが、やはり人気を集めているのはぼうぜ鯖なのでしょうか。
知名度も相まって、圧倒的にぼうぜ鯖が人気ですね。お刺身やしゃぶしゃぶ、煮付けにしても美味しく食べられると評判です。ただ、ぼうぜ鯖がブランドとして立ち上がった当初は「なんでそんな高いん?」と値段に呆れられたこともありました。価格には理由があることをご説明し、そしてなにより実際に食べていただくことによって、サバの商品価値に対する理解が次第に広がっていきましたね。
—— 最近では県外での知名度も上がってきたように思います。
そうですね。メディアで取り上げていただく機会も増え、遠方から「まえどれ市場」や坊勢島に来られた方はみなさん、ぼうぜ鯖を召し上がっていただくようになりました。
—— ほかにも、ブランド化している魚があるそうですね。
ワンシーズンあたりの漁獲量を確保できることを条件に、複数のブランド魚を展開しています。「ぼうぜ鯖」のほかには「ぼうぜがに」や、「白鷺鱧(しらさぎはも)「華姫(はなひめ)さわら」などがありますね。やはりサバが突出して人気ですが…。
—— ぼうぜ鯖の知名度が突出していることに理由はあるのでしょうか。
消費者の目線で見て「買いやすい」ことが要因だと思っています。たとえば同じくブランド展開している「華姫さわら」と比較すると、ぼうぜ鯖が体長60cm、重さ800g程度であるのに対し、華姫さわらは体長100cm、重さは4kgにもなります。家庭では大きなサワラ1本をさばき、食べきるのは難しいですよね。
またサイズが大きくなると、1本あたりの単価は必然的に高くなってしまいます。かといって切り身にしてしまうと、ブランド感が失われてしまうんです。そういった意味ではサバの大きさや価格は、家庭でも「買いやすい」と思っていただけているようです。
ぼうぜ鯖は活かしたまま消費地まで輸送できるので、飲食店でウリにしやすいという利点もあります。新鮮なサバをすぐに提供することができますからね。
坊勢の魚自体をブランド化するのが目標
—— ブランド魚展開の先には、どのような未来を見ているのでしょうか。
私たちとしては、最終的に坊勢の魚自体にブランド価値が生まれることがベストだと思っています。最近では、ぼうぜ鯖の知名度が上がってきて、坊勢島の存在も少しずつ認知されるようになってきたものの、まだここにはスポットライトが当たっていない魚介類がたくさんあります。
まずはぼうぜ鯖をはじめとする代表格の魚を知っていただいたあと、他の魚介類にも興味を持っていただく。ブランド化の意義はそこにあると思っています。
—— 現状ブランド化に至っていないものの、上田さんが推したい魚介類はありますか。
6月から7月にかけて漁獲される「ヒイカ」という小さなイカです。お刺身で食べても美味しいですし、醤油やお酒と共に炊くのもおすすめです。夏の始め頃には身体に卵を含むのですが、煮付けるとふっくらふくらみます。このたまごがとっても美味しいんです。
取材日にもヒイカが水揚げされていた
—— 食べてみたくなりました!なぜブランド化されないのでしょうか。
ヒイカの漁獲量が、年によって大きく変動するためです。ブランド化に成功したとしても、需要に応えられるだけの供給がなければ、漁業者への恩恵は薄いといえます。また、ブランド化するには少し地味だという要因もありますね。ホタルイカが人気を集めている事例があるので、うまくいけばブランディングできるかもしれませんが…。
—— その部分は難しそうですね。一般の方がこうしたいわば「マイナー」な魚を食べるチャンスはあるのでしょうか。
姫路の「まえどれ市場」では旬の魚介類をお出ししていますし、あとは漁協主催の漁業体験中に船上で試食していただくこともできます。夏場、底引き網漁の見学に来ていただくと、イカが大量に獲れることがあるんです。あまりにたくさん獲れるので、お土産としてお客さんに配ったりもするんですよね。漁業見学に来ていただいた方は、坊勢のイカがおいしいことを知っていると思います。
—— 貴重な体験ですね!#2では、漁業体験のお話を中心にお伺いしようと思います。
取材・編集:ハテシマサツキ