【佐渡島】島のクリエイティブは、どうあるべきか。映像制作者に聞く「もたらす人」の生き方

大佐渡山地を背景に立つ山本さん

島×クリエイティブの可能性を探る——。これをテーマに、はなれじま広報部が向かったのは、日本最大の離島・佐渡島。幼少期から佐渡島と本土を行き来しながら育ち、佐渡の地で映像制作会社を立ち上げた山本さんにお話を伺いました。

特殊な環境である島において、クリエイティブ産業はどうあるべきか。そして、クリエイティブを生業として生きるうえで大切なこととは。私たち自身も離島専門メディアとして、はっとすることがあったインタビューの様子をお届けします。

佐渡島ってどんなところ?
新潟県の沖合に浮かぶ日本最大の離島で、人口は2025年時点で約4.8万人(出典:住民基本台帳)。主要産業は漁業、農業、サービス業など。野生復帰したトキや、世界遺産に登録された「佐渡島の金山」で知られる。
インタビューに応える山本さん

スタジオママクワンカ 代表 山本 政次 氏
新潟市出身。システムエンジニア、アナウンサーを経て、2014年に佐渡島で映像制作会社「スタジオママクワンカ」を設立。島内事業者のPR映像制作、新聞広告制作、佐渡市を中心とした行政の映像制作、ドキュメンタリー制作などを行っている。

きっかけは中越地震。佐渡島で映像制作会社を興すまで

——まずは、山本さんと佐渡島の関係について教えてください。 

(山本さん:以下、敬称略)私は生まれは新潟市ですが、家族の実家が佐渡島にあるので、休みのたびに新潟と島を行き来しながら育ちました。佐渡島へ戻ったきっかけは2004年の新潟県中越地震です。当時、私はシステムエンジニアとしてテレビ局関係の仕事をしていました。ただ、勤務地が新潟県外だったため、故郷が被害を受けていたのに地震報道に関われなかったんです。

そこで感じたふがいなさを原動力に、「残りの人生は故郷のために使いたい」と思って佐渡島内のアナウンサー採用に応募し、アナウンサーになりました。任期が終わるころ、一度自分自身の力を試してみたいと思い、島内で独立して映像の仕事をすることに決めました。

佐渡の風景


——独立することに対して不安はありませんでしたか?

(山本)それまで会社員として働いてきたので、もちろん不安はありました。そんなとき、相談した島の方にこう言われたんです。「やまちゃん、腹くくれっちゃ。あたしの会社もご飯食べるとき、ふりかけかけるのでやっとのときもあったけど、なんとかなったわ」。その言葉で、心が決まりました。

「ママクワンカ」という屋号は、佐渡弁の「まま、食わんか?(ご飯を食べませんか?)」から名付けました。関わってくれる島の人たちみんながご飯を食べられますように、という願いを込めています。

——映像の仕事を始めるにあたって、島ならではの難しさはあったのでしょうか?

(山本)島は、都市に比べると企業の数も映像のニーズも少ないので、初めは映像制作以外にも様々な仕事をしました。ウェブサイト制作やお年寄り向けのPCサポート、さらには山菜や魚の加工、狩猟、農業の手伝いもやりました。インフラや資源が限られる島では、1つの仕事だけで経済的に安定させることはなかなか難しいためです。

ただ、自分の趣味や嗜好を活かして様々な人に喜んでいただけたので、結果的にはとても良かったなと感じています。これまでの自分の視点にはなかった部分で、学ばせていただくことも多かったです。

インタビューに応える山本さん


——たしかに、他の島でも複数の仕事を掛け持ちされる方も多いと聞きます。

(山本)特に島においては、半農半X*に代表されるようなハイブリッドな働き方はできた方がいいと思います。都市では「仕事=1つの職種」になりがちですが、島ではさまざまな分野の仕事をすることになります。そこでの出会いから、本業の仕事が広がることもあるのは、良いところですね。

かくいう私も、お客さんの紹介や前職のつながりから仕事が増えていったので、営業活動はほとんどしていません。おかげさまで、動画や新聞広告、タレントさんの撮影や、ドキュメンタリーや情報誌の制作、ロケのコーディネートなどを幅広く手掛けることができました。

*半農半X:農業と他の仕事(X)を組み合わせて生活するライフスタイルのこと

島で事業を始めることの利点

——反対に、事業を始めるうえで離島ならではのメリットはありましたか?

(山本)簡単には行けない場所にいるからこそ、都市の人が抱える不便を解消できるのは、島で事業をする強みだと思います。

例えば佐渡で撮影するとき、島外のテレビ局は内情が分からないという不安を抱えています。そのため、島内の様々な事情を熟知し、地元住民とも信頼関係がある人がいるとロケがスムーズに進むので重宝されるんです。

山本さんの仕事道具の手持ちカメラ


——島について詳しい人が少ないからこその強みですね。

(山本)ほかには、アクセスが悪いので良い映像が撮れなかったときのリスクが大きいというのも特徴です。ロケ中の天候が悪く、テレビ局が思い通りの映像を撮れない場合は、後日、天気の良い日に撮影した映像を送るようにしています。すると、テレビ局の方からとても喜んでもらえるんです。

こうしてお互いに気持ちの良い仕事をすることで、また佐渡島を選んでいただき、再び一緒に仕事ができる関係がつくれると思っています。

——山本さんはドローンを使った撮影も行っていますよね。ドローン撮影の面でも、佐渡ならではの特徴はありますか?

(山本)佐渡は山と海が近いことが特徴です。農業風景のすぐ先に海が広がるような風景の連続性があり、四季が鮮やかにみられます。ドローンで撮ると、そのランドスケープが分かりやすいので、ドローンはこの島と相性の良い機材だと思います。

ドローンの撮影映像

(写真提供:スタジオママクワンカ)

(山本)ドローンが映すのは、表面的な景色だけではありません。例えば棚田を撮るときにドローンを使うと、その歴史がよくわかるんです。今は区画整理された四角い田んぼが多いですが、ドローンで棚田を真上から見ると、昔のままの変形田が残っているのがわかります。江戸時代からの形を、農家さんが代々守り続けている。ドローンから見えるのは、そうした風景が内包する特質そのものです。

ただし、ドローン撮影に際してはルールを守ることと、地域へリスペクトを持ち、住民の方々に配慮することが大前提です。

ドローンの撮影映像

(写真提供:スタジオママクワンカ)

クリエイターの前に、プレイヤーであれ

——働く場と暮らしの場が近いことも、島の特徴ではないかと思います。仕事をするうえで、山本さんが心がけていることはありますか?

(山本)「ママクワンカ」の屋号の通り、関わってくださる全ての方にメリットがあるよう心がけています。私はクリエイターが偉いとは全く思っていませんし、「コンテンツ」という言い方が正直好きではありません。島は人の生活の場であり、消費されるべきではないから。クリエイターが自己実現をする場として存在しているわけではないんです。

インタビューに応える山本さん


(山本)特に、人口減少が急速に進む場において、傍観者は役に立ちません。農業、漁業、医療、製造業、全てで人が足りていないので、欲しいのはそうした領域で積極的に動けるプレイヤーです。ですから、まずは島のプレイヤーとなり、当事者になって感じた問題意識を発信するために、クリエイティブのスキルを使うのが健全であり順当だと思います。その方が周囲の共感を得られますし、結果的に長く続けていけるのではないでしょうか。

その土地の人々が大切に積み重ねてきたものにリスペクトを持ち、同じ目線と立ち位置で地域について考えて伴走する。声なき声を見つめて可視化する。島で活動するクリエイターには、そんな姿勢が必要だと思います。

漁業の風景


——まずは自分のフィールドを持ち、その課題解決のためにウェブサイトや映像、出版物などの制作スキルを活かすということですね。

(山本)自分がプレイヤーとして携わりたいことを見つけ、まずは汗を流すことが、結果的には良い表現に繋がってくる。島におけるクリエイティブの本質はそこにあると思います。

——山本さん自身も、佐渡をテーマにした映像作品を作られていますね。

(山本)いま、佐渡島で長年継承されてきた郷土文化や暮らし、食の記憶を映像に残す活動をしています。高齢化で担い手が減っている上、他の人が知らない技を持った方が亡くなると、誰も再現できなくなってしまう。そんな深刻な問題が現在進行形で起こっているためです。

例えば踊りや民謡などは映像が残っていれば、未来で興味を持った人が技を復活させてくれる可能性が生まれます。音や舞のタイミングなど、文字だけではわからない情報も、映像でなら残せるので相性が良いですね。不可逆を可逆にするこの活動は、ライフワークとして続けていきたいと思っています。

奪う人より、もたらす人。島で問われる人間性

——本土側・島側の両視点を持つ山本さんにとって、島で生きるうえで大切なことは何だと思いますか?

(山本)島から奪う人より、島にもたらす人であり続けることが大切だと思います。島では、人もお金も土地も限られています。そこに住む人たちは限られた資源をやりくりしながら、なんとかバランスをとって暮らしてきました。そこで「自分が、自分が」と主張してリソースを奪うのではなく、同じ目線で課題に向き合い、暮らしに寄り添って一緒に汗を流してくれる人が、島に溶け込めると思います。

インタビューに応える山本さん


——資源が限られているからこそ、その中で共存する姿勢が大切なんですね。

(山本)あとは「もたらすこと」に関して、私は映像の仕事を通して島に外貨を持ってくることを意識しています。まだ規模は小さいですが、周囲に仕事を発注するようにもなりました。都市からマネタイズできる仕事を持ってくることで、島のためになることを願っています。

ただ私が思うに、最終的に問われるのはスキルよりも人間力だと思います。言っていることとやっていることが一致しているか、島やそこで暮らす人たちにリスペクトを持っているか。周囲の人たちは言動だけではなく行動もしっかり見ていますから。

——人が生きるうえでの本質的な部分でもありますが、島では特にそれがわかりやすく現れるのかもしれません。

(山本)島は、人の輪郭が直球で出る場所です。良くも悪くも人間関係が密なので、都市のようにそこから外れて生きていくことが難しいんです。だからこそ、社会と競合ではなく共存する生き方の方が、地域もその人自身も長続きすると思います。

インタビューに応える山本さん


——今回の取材を通して、私たちにとっても大切な気づきがあったように思います。ありがとうございました!

あとがき(卜部奏音)

「島はコンテンツではない」「奪う人より、もたらす人」。その言葉が深く心に刺さりました。島で挑戦する方の姿や島の魅力を多くの人に伝えたい。そう思って記事を作ってきましたが、それが、果たして島を利用することになっていないだろうか。常にこの問いを自分に投げかけながら、「もたらす人」として島と関わっていきたい、と強く感じた取材でした。

企画・取材・執筆:卜部奏音
企画・編集:ハテシマサツキ

関連記事

  1. 坊勢漁業協同組合#1

    【坊勢島】「なんでそんなに高いん?」から始まるサバのブランド戦略 -坊勢漁業協同組合 上田 章太 #1

  2. スターリンク導入から1年。島に起きた変化とは?

    【請島・与路島】「離島の離島」が世界とつながった日から1年。スターリンク導入の影響はいかに。

  3. 周防大島の若き養蜂家へiインタビュー

    【周防大島】EC展開のきっかけはインフラの壊滅。離島移住した若き養蜂家の挑戦 -株式会社はちとひとと 笠原 隆史

  4. ニッチすぎる!離島トレカの開発者に直撃インタビュー【ゼンリンコラボ】

  5. いえしまコンシェルジュ#1

    【家島】おもしろさを「よそもの目線」で見つめる -いえしまコンシェルジュ 中西 和也・麻田 景太 #1

  6. 後藤鉱泉所#1

    【向島】「地域の宝を、地域の力に。」受け継がれた“幻のサイダー”の味を守るために – 後藤鉱泉所  森本繁郎 #1

インタビュー記事バナー
インターン募集中!
Instagrambanner
ECサイト構築ならアトリア
プレスリリースバナー