丸亀市からフェリーで約1時間半。瀬戸内海に浮かぶ人口17人*の小さな島、手島。
2019年、そこに2人の若手陶芸家が移住し、陶芸家ユニット「てしま島苑」を立ち上げました。「はじまりの見えるものづくり」をモットーに、自ら空き家を改修して作った工房で、土や釉薬(ゆうやく:陶器の表面を保護するために塗られる、ガラス質のコーティング)も含め、島の素材を使って器作りを行っています。
創作を仕事とする2人にとって、島はどんな存在なのでしょうか?てしま島苑の松下龍平(まつしたりょうへい・上部写真左)さんと松原恵美(まつばらえみ・上部写真右)さんに、「島を舞台にしたものづくり」をテーマにお話を聞きました。
*2025年12月時点

作りたいのは、島からにじみ出た焼き物
——てしま島苑は、京都の職業訓練校で出会った松下さんと松原さんが2人で立ち上げた陶芸家ユニットだと伺いました。まずは、普段の仕事内容について教えてください。
(松下さん:以下、敬称略)土から成形したり焼いたりといった作品自体を作る作業は松原が、新しい作品のアイディア出しや企画作り、釉薬の実験、工房づくりなどは僕が担っています。僕自身は考えることが好きなので、僕のアイデアを2人で練りながら彼女が形にしていくという流れで、うまく役割分担しています。
(松原さん:以下、敬称略)私の1日は土の管理から始まります。陶芸用の土を自分自身で作っているので、ものづくりができる状態にするために、乾かしたり水につけたりして好みの硬さに調整する必要があるんです。
1時間ほど作業をしてからは、休憩や散歩を挟みながら夜まで焼き物を作り続けます。朝の7時に起きて作業を始めて、夜の7時にやめるというルーティンですね。展示や注文のスケジュールによっては2ヶ月位、休みなしで作り続けるときもあります。

——かなりストイックに取り組まれているのですね。作品づくりの際は、何を基準にして作るものを決めているのでしょうか?
(松下)僕たちは「島からにじみ出てきたような焼き物を作る」ことを作品づくりのテーマにしています。トレンドを追うよりも、「私自身は何を本当に良いと思うのだろう」「島で暮らしながら島の素材だけでものづくりをするとはどういうことなのだろう」といった答えのない問いを2人で深掘るうちに、作るものが決まっていきます。
ものづくりにつきまとう「業の深さ」とは?
——島で暮らし、島の素材を使ってものづくりをする上で実感することはありますか。
(松原)手島で素材を集め、ものづくりをするようになってから、作ることに対する業(ごう)の深さを感じるようになりました。
——業、ですか?
(松原)土は焼いてしまうと元に戻せません。それゆえ、その状態にした責任を取るというか。作ったからには、それが世の中に存在してもいいということを証明し続けなきゃいけないと思うんです。

(松原)単純に作って楽しいという気持ちも、もちろん大切です。しかし、島で素材を集めて焼き物を生み出すうちに、作り出したことへの責任も強く感じるようになりました。
(松下)僕は、島に来る前から陶芸家として活動していたのですが、当時はインターネットで取り寄せた土を使っていたんです。作品づくりに失敗しても「ちょっとうまくいかなかったな」くらいの気持ちで割ってゴミに出していて、そこにかけた手間や時間に対して思いを馳せることはありませんでした。
でも手島に来てからは、島の海岸を歩いて干潮時にしか行けない場所から土を取ったり、友人が育てた唐辛子の枝や葉を燃やして灰にしたり…。土や釉薬も自分たちで作るようになりました。

島の長い歴史から生まれた土や、友人が手間暇かけて育てた作物を目の前にすると、それらを作品へと昇華させる以上、中途半端なものは出せないという思いが強くなりました。今でも失敗はありますが、焼き物はゴミにせず、砕いて釉薬の原料として再利用するようにしています。
——自然との距離感が近く、原料がどこから来たか分かるコンパクトな島ならではの視点ですね。
(松原)自然の恩恵を受けて土を掘ったり植物を採ったりすることは、自分では元に戻せないという罪深いことだと思いつつ、実はそれに助けられている部分もあります。自然の中に身を置くと人間のちっぽけさが分かって、「ああ、大丈夫」って思うんです。人と比べると辛くなるけど、人間には勝てない存在があると思うと、しょうがないよねって気持ちになれます。
——松下さんも、同じような感覚になることはありますか?
(松下)僕も島にいると、不思議と寂しさを感じないですね。都会のような情報過多のところではそれが当たり前になってキャッチする力が落ちてしまいますが、手島では勝手に入ってくる情報が少ない分、自分自身が良いと思うものへの感度が上がるような気がします。
反対に、たまに都市部の展示に足を運んで他の方が生み出した作品に触れると、より多くの情報を感じ取れるようになった気がします。乾いたスポンジの方が水が染み込みやすいのと同じかもしれませんね。

住めば都ではなく、住んで都にする。
——おふたりのお話をお聞きすると、島という環境はものづくりに向いているのかもしれませんね。そもそも、手島に移住した決め手は何だったのでしょうか?
(松下)僕は自分の工房とギャラリーを持ちたいという思いがずっとあって、友人に誘われたのがきっかけで離島に興味を持ちました。島のサイズ感がちょうどいいのと、過度に産業化されていないという理由でいくつか候補にあがったうちのひとつが手島でした。
(松原)最後の決め手は島の人の雰囲気ですね。下見に訪れた際に、私たちには手島の方たちの雰囲気がよく合っていると直感したんです。
(松下)この島の住人17人のうち半分が移住者で、その大半が若者です。それゆえ、島外から来た人に対する理解があって、風通しの良い雰囲気があると思います。自治会長の人柄によるところも大きいですね。

(松原)手島からは、島の外に働きに出ることが難しくて。だから私たちを追い込む環境として向いていたというのも理由の1つでした。ただ、移住して2年半はもともと空き家だった物件を工房兼ギャラリー兼住居として整備するのにお金や時間を費やしていて仕事ができなかったので、一時は本当に追い込まれていました。
——島への移住を考える人にとって、家や仕事の話は避けては通れませんよね。
(松原)島で暮らすとなると、自分でやらなきゃいけない要素が絶対に出てくるんです。それも後出しで。だから移住する前の段階で「私はあれもできない、これもできない」と考えていると動けなくなってしまうので、あまり気にせずに後から対応していくくらいの気持ちで島に渡った方がいいと思います。目的や、やりたいことがあって、それに島の環境が適しているのであれば、それ以上のことは調べすぎない方がいいです。
(松下)下見は絶対に必要ですが、実際僕たちも勢いで来たところはありますからね。一緒に島に来た移住者の友人からは「住めば都じゃなくて、住んで都にするんだよ」と言われたことがあって。頑なに自分がやりたいことをずっとやり続けるという姿勢だと、もともと島に住んでいた方とも摩擦が生まれてしまうので、自分が環境に合わせて変化していくことで住みやすくなっていく側面もあると思います。

空き家の改修と作品づくりの共通点
——空き家の改修も「住んで都にする」活動の一環だったかと思いますが、やってみていかがでしたか?
(松下)もう本当に、本当に大変でした。建築の専門家ではないので全く知らない分野だったのですが、島にいると分からないことをそのまま放置できないんです。
自分たちでやるしかないので、その都度調べて納得してやってみるという繰り返しでした。でも、どんなに大変なことでもちゃんとやっていけば、いつかは終わるということを学ぶきっかけにはなったような気がします。
(松原)家の改修は必要に迫られて取り組みましたが、その中で今までなかった世界の見え方ができるようになりました。窓や換気扇ひとつ選ぶのにも知らなかったことに触れられて、興味がないところにも踏み込んでいくことが世界を広げてくれると実感したんです。

(松下)この経験は、作品作りにもすごく活かされている実感があります。やったことがない技法を試すとき、2人で話し合って納得がいく答えが出たら、まずは試しにやってみるんです。
そして、結果を見て改善するという一連の過程が、家の改修のおかげで自然にできるようになりました。新しい挑戦をするのって結構カロリーがかかることですが、免疫はできたと思います。
手島を「作り手の島」にするために
——興味があることを深めるのは簡単ですが、そうでないことを新しく学ばざるを得ない環境というのは貴重かもしれませんね。この先、おふたりが目指す生活や仕事の理想像はありますか?
(松原)私は目指している人物像があって、それが「現代的な田舎のおばあちゃん」なんです。実体験に基づいた知識が豊富にありながら、最先端の情報にも詳しい、ハイブリッドなおばあちゃんになりたいです(笑)

(松原)そのためには、生活の中で自分ができることを増やさないといけないので、まずは畑やお菓子作りといった目の前のことからやっていこうと思っています。
(松下)僕は手島を「作り手の島」にしたいと思っています。てしま島苑の「苑」は文化や芸術が集まる場所という意味がある字です。これから、ものを作って生計を立てる人がたくさんいる島にしていきたいなと。
その先駆けとして、今僕たちは「テンカラセンカラ」という体験イベントを開いています。手島に来てくれたお客様と一緒に土の採取やひまわりの収穫をして、陶芸を体験してもらって、最後に僕らがその作品にその会で採取した植物を使った釉薬をかけてお届けするんです。

「テンカラセンカラ」当日の様子(提供:てしま島苑)
(松下)「ものを作ること」の本質を体験できるのが手島の魅力だと思うので、ぜひ足を運んでこの世界観に入り込んでもらえたらと思います。
——私も取材を通して手島の居心地の良さをとても感じました。またプライベートでも遊びに来ます!
編集後記(ハテシマサツキ)
周囲のノイズが多くなるほど創作の純度が下がってしまう一方、無菌状態では何も生まれない。能動的に感性をはたらかせて、実感とともに情報を得られるこの島は、ものを作りたいと願う者にぴったりなのかもしれない。
以前、私にとっての幸せとは何かを考えたとき、自らの力を十分発揮できる大きさのコミュニティに属し、自他に対して献身的に生きることだと思ったことがある。
瀬戸内海に浮かぶ小さな島でものをつくり、個の集合体として暮らす。私はたしかに、手島にひとつの幸せの形を見たのだ。
企画・取材・編集:ハテシマサツキ
執筆:卜部 奏音
「てしま島苑」Instagram:https://www.instagram.com/teshima_toen/






