ある夏の日、はなれじま広報部がいたのは、陽射しが照りつける海水浴場でした。今回の取材テーマは「島で新しいことを始める」。桂島の地で2年連続海の家をオープンした大学生に、島でアクションを起こす難しさや、学んだことについてインタビューしました。
海の家が復活!大学生による「アイランドフェス」開催

震災やコロナ禍で途絶えていた桂島海水浴場の活気を取り戻そうと、2024年から宮城大学の学生たちが海の家を復活させるプロジェクトに取り組んでいます。その名も「アイランドフェス」。

2025年の夏も期間限定で海の家をオープンすべく、多くの大学生が桂島に渡りました。準備日、桟橋や海水浴場の周辺には、段ボールや調理器具を抱えた学生たちが行き交います。学生とともに準備を進める島内在住者の姿もあり、開催前から小さな賑わいが広がっていました。
来場者数は前年越えの600人。海の家は大盛況

そして迎えた「アイランドフェス2025」初日。桂島の桟橋に到着した定期船からは、浮き輪やクーラーボックスを抱えた海水浴客が続々と降り立ちます。
海水浴場は朝から家族連れなどで賑わい、学生たちが運営する海の家に立ち寄る姿も多く見られました。周囲には炭火のにおいが立ちこめ、笑い声が響きます。

2日間にわたって開催されたイベントの集客数は約600人。前年の約200人を大きく上回る結果となりました。

子どもが楽しめる縁日や、島民と一緒に桂島を歩き魅力を体感するツアーなど、幅広い世代が楽しめる体験プログラムも好評。

親子で来場した方からは、「子どもを浦戸諸島にある小学校に通わせることを考えていて、島のことを知るために来ました。子どもも楽しそうにしていたので、来て良かったです。」という声が上がっていました。
「アイランドフェス」に感じる手応え
「アイランドフェス」を主催するのは、宮城大学の学生団体「Brush(ブラッシュ)」。現・代表の遠藤 亜子さんに、イベント開催の経緯についてお伺いしました。
——どのような経緯で「アイランドフェス」を開催することになったのですか?
(遠藤さん:以下、敬称略)
桂島の海水浴場は東日本大震災の津波で被害を受けましたが、2014年に再開し、一時は年間8,000人以上の海水浴客で賑わうまでに回復しました。

(遠藤)でも2023年にはコロナ禍の影響もあり、その数が約1,000人にまで落ち込んでしまって…。追い打ちをかけるように海の家を営む担い手も不足し、ついに桂島の浜辺から海の家が姿を消してしまったんです。

(遠藤)復興が進んで島がきれいになっても人が来ないという現状を見て、桂島に親族を持つ宮城大生が発起人となり、「アイランドフェス」のプロジェクトがスタートしました。
それから彼女の想いに共感したメンバーが次第に集まり、クラウドファンディングでの支援や島内の方々の協力を受け、2年連続でイベントを開催することができました。
——今年、「アイランドフェス2025」の手応えはいかがでしょうか。
(遠藤)昨年よりも多くの方に来場いただき、とても嬉しく思っています。2024年度の集客数は約200名だったのですが、なんと今回は約600名の方にお越しいただいたんです。

——前回と比較して、集客が伸びた要因は何だと考えていますか?
(遠藤)今年はInstagramでの告知に注力したり、塩竃市内(本土)の店舗にポスターを貼らせてもらったりと、PRに力を入れたことで、効果が出たのだと思っています。実際、Instagramを見てご来場いただいた方も多かったです。
テーマは「持続していく」こと
「アイランドフェス」は、学生団体「Brush」におけるひとつのプロジェクトとして実施されています。今年、メンバーの指揮をとるのは、プロジェクトの代表である松田 響弥さんです。
——2度目の開催となった「アイランドフェス」のコンセプトを教えてください。
(松田さん:以下、敬称略)
私たちの目的はイベントの開催そのものではありません。将来的に私たちの手が離れたとしても、人が自然と訪れるような桂島を作ることを目指しています。
このプロジェクトをきっかけに、桂島のことを知ってもらったり、桂島で新たなことを始めたりする人が増えると嬉しいですね。

——継続開催ならではの難しさはありましたか?
(松田)やはり2年目となると、1年目ほどの目新しさに欠けてしまう部分があって…。クラウドファンディングは皆様のおかげで成功したものの、継続的な資金調達手段には向いていないと感じたので、次年度以降は新たな方法を模索する必要があると感じました。

——そのような中、プロジェクト自体の「持続性」はどのように生み出されているのでしょうか。
(松田)FacebookグループやYouTubeなどのSNSを活用して、私たちの想いに共感してくださる方のコミュニティを形成し、持続的な関係構築に取り組んでいます。
クラウドファンディングを見て、「Brushだから」応援してくださるのはもちろん嬉しいのですが、これからは、桂島での活動や桂島そのものを、長期的に応援してくれる人たちの輪を作っていきたいです。

(松田)また今回、桂島の魅力を紹介するZINE(ジン:自主出版物)を制作して販売することにしました。出版物を通して、来場者の方へ桂島の魅力をお届けするとともに、制作に携わるメンバーにも桂島のことを深く知ってもらうきっかけにしようと考えたんです。
——大学生メンバーが流動する中、新たな世代が島のことを知る機会は貴重ですね。
(松田)そうですね。ZINEの制作は新入生たちに担当してもらったのですが、前回のアイランドフェスを知らないメンバーも、どんどん桂島に詳しくなっていたので、ねらい通りだったように思います。
「島の人に来てもらえない」という壁
一方で、課題も浮かび上がっていました。それは「島内の住民がイベントに足を運んでくれない」こと。桂島を盛り上げるべく奮闘する学生たちにとって、当の島民の参加を得られないことが、ずっと引っかかっていたそうです。
こうした状況から、プロジェクトの副代表・小原 和夏さんは当初、アイランドフェスの継続開催には反対だったといいます。

——なぜ、2回目の開催に消極的だったのでしょうか。
(小原さん:以下、敬称略)
準備段階では島の方にたくさん手伝っていただいたのですが、お客さんとしての来場者数は少なめだったんです。島の方々の理解を得るのは難しいのだと考え、2回目の開催には慎重になるべきだと考えました。
——そんな中、プロジェクトの副代表として2度目の「アイランドフェス」開催を進められたのはなぜでしょうか。
(小原)ここで諦めてしまっては、島との関係が途絶えてしまうと思ったからです。後から知ったことですが、島内ではアイランドフェス開催について肯定的な意見も多かったそうで…。そこから「改善すべきポイントを見つけて、より良いイベントを作ろう」と考えるようになりました。
——当時、もっとも改善すべきことは何でしたか?
(小原)コミュニケーションの密度が低かったことです。前回も学生と島民の方との間で関係性を構築しようと努めましたが、まだまだ不足していたみたいでした。そこで「アイランドフェス2025」を開催するまでに、できる限り桂島に通うことにしたんです。

(小原)最初はなかなか心を開いてもらえなかったのですが、何度も通いながら挨拶やちょっとしたお手伝いをしているうち、だんだん孫のように慕ってもらえるようになって。家に上げてもらい、ゼリーをいただくこともありました。私自身としても、イベント外で桂島に関わり続けたいと強く思うようになっていきましたね。
「何をするか」より「誰がするか」
メンバーたちの思いがこもった「アイランドフェス2025」は、大盛況のうちに無事終了。イベント翌日、桂島には挨拶回りをするBrushメンバーの姿がありました。

「今年もありがとうございました!」
丁寧に頭を下げる学生に対して、「お疲れ様!」「また来年ね」と温かい声がかけられます。
一方で、初回開催時と同様、当日会場まで足を運ばなかった島民が多かったことも、依然として課題に残っています。桂島に居住する方を対象にインタビューをしたところ、さまざまな意見が出てきました。
・島で新しいことをするのは歓迎している。
・イベント自体は「よく分からないから」行かない。
・長年続く地域行事(秋祭りなど)には島民の参加率が高い。
ここで「どんなイベントなら参加したくなるのか」と考えるのは自然ですが、中には別の角度でカギになりそうなコメントも。
「新しいイベントへの参加は腰が重い。だけど、誘ってもらえたらどんなイベントでも行くかもしれないね。」
この言葉から見えてくるのは、ここでは「何をするか」以上に「誰がするか」が大切だということ。特に小さな離島では、マーケティング的な集客よりも、日常的なコミュニケーションや関係性の積み重ねが欠かせないのです。
そして、島内外の関係づくりには正解も近道もありません。若者たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
こうして、挑戦は続いていく。

今回「アイランドフェス2025」の取材を通して見たのは、イベントを一度で終わらせず、挑戦し続けることの難しさでした。だからこそ、活動を続けることや長期的な関係性を醸成していくことには大いに価値があります。
はなれじま広報部では、「アイランドフェス2026」の開催に向け、Brushメンバーによる連載企画を予定しています。ぜひ、等身大の目線で更新される挑戦の記録をお楽しみに。
企画・取材・執筆:ハテシマサツキ
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