兵庫県は淡路島、中心地である洲本からさらに南へ下ること約15分。ハテシマサツキと共同経営者の田上は、住宅地の中にある銭湯を目指していた。

第一章:男ふたり、島の銭湯へ
バックミラー越しに映るのは、大阪湾の濃い青と、夏の雲。
他愛ない会話をしているうちに、目的地へと近づいていく。
私の悪い癖で、「もう分かる」というポイントまでくるとナビをオフにしてしまう。
音楽の授業で合唱をしている最中、ワンテンポ先の歌詞を先生にリードされて「んぁあ゛あ゛」となるような、そんな感覚。あるあるじゃないのかな。
車を停め、今日の目的地を探す。
ん?これか?
民家に「ゆ」の暖簾がかかったような場所。

そう、ここが今回の島銭湯、増田湯である。
Googleマップを辿って付近まで来ても、ぱっと見では見つけられないような佇まいだ。
恐る恐る引き戸を開け、中を伺う。
小さいながら番台があり、そこは紛れもなく銭湯だった。
第二章:友達と会社をやるって…
銭湯内で写真を撮ることができないので、第二章はイラストで。
イラスト:mai
明らかに初見だと分かったのか、番台に座る年配の女性がこちらを見るなり、タオルをこちらに手渡す。
「ほい、石鹸もないならこれ使って」
「あ、ありがとうございます…。」
それで、料金は450円。タオルも石鹸もサービスだったのか…。
次からは持ってこなければ。
脱衣所には鍵のないロッカーと体重計、脱衣の際に腰掛けるための長いベンチ。
スタンダードな銭湯の様相だ。

が。異彩を放っているのは脱衣所の中に鎮座しているサウナ室。銭湯では浴室の中にサウナがあるのが当たり前だが、なんと脱衣所の中にあるではないか。
後から増設したのだろう。真新しいサウナ室が、タイムマシンのように存在感を放つ。
真横には浴室に続くドアがあり、その向こう側から桶が奏でる軽快な「カコンッ」という音が高らかに響いていた。
カラカラとドアを開け、こぢんまりとした浴室を二人で見渡す。
先客は3名。全員ご年配でスキンヘッドの方だった。うちひとりは背中に大きな刺青が入っている。ゲームに出てくるボスキャラみたいだな、と思った。
洗い場が埋まってしまっていたので隅で細々と身体を流す。しきたり知らずな感じは出したくないし、萎縮するのも違う。難しい立ち回りが求められる。
幸い湯船には誰も入っていなかったので、早めに入ることにする。
まずはつま先から…

…あっっっっっっっっっつ!!!!!!!
いや、あっっっっっっっっっつ!!!!!!!
大きな声を出せる環境ではなかったので、悲鳴は腹の中に抑えこむ。
あぁ…びっくりした。
ちょっと慣れたし、もう一回慎重に…
…あっっっっっっっっっつ!!!!!!!
なんでみんな平然と入ってるんだ…。
仕方がないので、身体を一瞬浸しては湯船のフチに座って…を繰り返す。
田上に目をやる。顔を見合わせる二人。多分、同じ顔をしていたんだと思う。
ふふっと笑みがこぼれた。
熱湯風呂を困難な局面に重ねるのはどうかとも思うが、きっと私たちはこうして会社設立以来、困難な局面を乗り越えてきた。あらゆる体験を「一興」だと笑って進んできたのだ。
私たちは同じ大学のサークルで出会い、会社を立ち上げた。数年間毎日のように一緒にいて、今日もまた共に事業へ心血を注いでいる。
資本金の比率は50:50。合同会社なので持ち株もない。正真正銘の共同代表だ。
こんなことを話すと、大概「喧嘩とかしないの?」「友達と会社やるって、甘い夢なんじゃないの?」と言われる。
甘い夢かもしれない。意思決定に難しさを感じることもある。
でも、私は今があるのは二人だったからだと胸を張って言える。
駆け出しの経営者として、ただの20代として、悩む局面は山ほどある。
理想、義務感、常識…ぐちゃぐちゃになって動けなくなってしまうことも珍しくない。
そんな時、(少なくとも)私は相方に助けられている。
互いにライター・エンジニアと全く違う職種だが、だからこそリスペクトが生まれる。そして信頼が育まれる。
クリエイター同士としても、友人としてもなくてはならない存在なのだろう。どちらも満たす人はなかなかいないから、「友人と起業するのは難しい」と言われるのかもしれない。

熱い湯船は早々に諦め、脱衣室内にあるサウナへ。
狭さを感じさせない綺麗さと心地よい高温に、すぐに汗がにじむ。
壁にぶつかった時。
どうにもならないことは「どうにもならない」と言ってくれるから、「逃げ」ではなく「戦略的撤退」を選べる。嬉しい時は一緒に喜んでくれるから、そのパワーを新たな企画の起爆剤にできる。
経営者は孤独な生き物だというが、少なくともその孤独感を共有してくれる仲間がいれば、孤独にはならない。結局のところ、お金や法人の所有そのものよりも、小さく強いコミュニティに真理があるのだと思う。
私にとっての幸せとは。
サウナ室の温度が高まる中、問い続ける。そして、家族や友人という枠に囚われない、自発的で強靱なつながりの実現に行き着く。
小さな島では、そんな「小さくて強い」コミュニティを垣間見ることがある。部外者にしてみれば閉鎖的だと捉えられるのかもしれないが、ある種の壁は、自分たちを守ることにもつながる。
自分自身の居場所を確立しながら、居心地の良い空間から飛び出して挑戦する。そのあり方を島に重ね、まだ見ぬ明日へと向かっていく。
サウナと水風呂を経て、湯船に再挑戦。
きっと、苦楽をともにした相方となら、不可能はない。
つま先で湯をなでる。
…あっっっっっっっっっつ!!!!!!!
まだまだ、鍛錬が必要なようだ。
執筆:ハテシマサツキ
イラスト:mai






