島の「足りない」で仕事を作る。協力隊卒業の、その後 – 街を出て、それから。#2

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離島で活動する地域おこし協力隊に、リアルな島の仕事と暮らしを聞く「街を出て、それから。」の連載。第2回は、対馬島(長崎県)で英語ガイドを営む元地域おこし協力隊の橘田さんにお話を伺いました。

世界一周クルーズ船や日本政府観光局での勤務を経て、2022年に東京から夫と2人の子どもとともに対馬に移住した橘田さん。協力隊の任期後も島に残り、観光業のプロとしての視点から見えた「島に足りないもの」を仕事にしてきた、その軌跡を追います。

▼VISIT TSUSHIMA 代表 橘田 ゆかり 氏
神奈川県鎌倉市出身。クルーズ船乗務員やスペイン留学、政府観光局での勤務を経て2022年に対馬市島おこし協働隊に着任。これまでに世界45ヶ国を旅している。

対馬島ってどんなところ?
九州の北方、玄界灘に浮かぶ通称「国境の島」。日本と大陸を結ぶ要衝として、古くから朝鮮との外交や貿易を担ってきた。人口は約2.8万人(2020年度国勢調査)。釜山から最短で1時間の距離にあり、近年は韓国からの観光客が多く訪れる。

観光のプロから、島の協力隊員へ

——まずは、橘田さんが対馬に移住した経緯を教えてください。
(橘田さん:以下、敬称略)対馬で野生動物保護の仕事がしたいという夫の希望がきっかけです。それまでは夫婦ともに東京で会社員をしながら2歳と4歳の子どもを育てていて、対馬を訪れたこともなかったのですが、私も夫も自然が好きで自然豊かな場所で子育てがしたかったので、「まずは行ってみよう」と2022年に移住しました。

——対馬に移住後、最初にしたことはなんでしょうか?
(橘田)対馬で仕事を探していたのですが、その中でちょうど観光分野の地域おこし協力隊(以下「協力隊」)の募集を見つけたんです。

私は元々、世界一周クルーズ船の乗務員をしていて、その後、スペイン留学を経て日本政府観光局で働いていました。一貫して観光関連の仕事に関わっていたので、「この経験を活かせるかもしれない!」と思って応募しました。

——協力隊としては、どのような活動をしていましたか?
(橘田)活動内容は細かくは決まっておらず、協力隊の担当者さんからは「好きにやってみて」と言われたので、誘われたものは全て取り組んでみました。

例えば、島をドライブして写真を撮影し、SNSで対馬観光をPRする「対馬の女(ひと)プロジェクト」を立ち上げたり、子ども向けの自然体験イベントを開催したり。

中でも特に印象深かったのは、対馬に取材に来た香港テレビ局の、予約手配や撮影準備の仕事でした。そのとき、島全体で韓国以外の外国人観光客への対応が手薄になっていることに気がついたんです。

実際、対馬には年間約27万人の外国人観光客が入国しますが、そのうちの96%が韓国人だそうです。そのため、韓国語を話せる方や韓国資本のレンタカー・ホテルはあるのですが、英語のサービスがなかなかありません。島には英語を話せる人もちらほらいるのですが、仕事にしているわけでない方がほとんどでした。

そうした、対馬の課題に触れたことが、いま私が取り組んでいる英語ガイドのきっかけになったんです。

——確かに、島のあちこちでハングルの標識や韓国人旅行者の姿を見かけました!圧倒的に韓国人観光客が多い分、そこに島のリソースが集中してしまうのですね。

「子どもと何分会ったんだろう?」を変えた対馬暮らし

——協力隊の任期後も島に残ることは、あらかじめ決めていたのでしょうか?
(橘田)実は、対馬に移住した当初、任期が終わったら東京に帰ろうと思っていました。でも、対馬で過ごすうちに、このゆったりとした暮らしが気に入って、東京に戻ることが考えられなくなってしまって。対馬の環境で子育てをする中、やはり子どもが小さいうちはこのまま自然の中に身を置きたいという想いもあり、対馬に残ることを決めました。

——それだけ、東京と対馬の暮らしは違ったんですね。
(橘田)そうですね。最も大きかったのは、子どもと過ごす時間の感覚です。東京にいたころは夫婦ともに仕事が忙しかったので、遅いときは子どもを20時まで保育園に預けて働いていました。ある日、特に仕事が忙しくて、かなり遅い時間の電車で帰ることになったんです。疲れ切って家に着いたとき、ふと「今日、何分子どもと会ったんだろう?」と思ってしまって。

でも、対馬では職場のすぐ近くに子ども園も小学校もあるので、16~17時台には迎えに行けますし、そのまま園庭で他の子たちと遊ばせてから帰ることもできます。東京の保育園はビルのなかにあったので、お迎えのあとに園庭で遊ばせるという選択肢自体がありませんでした。

暮らす場所が変わるだけで、親としての時間の使い方も、子どもとの向き合い方も、こんなに変わるのだと実感しましたね。

——家族との時間の過ごし方が大きく変わったのですね。対馬に残ると決めてから、就職ではなく起業を選んだのはなぜですか?
(橘田)一番は、家族との時間を大切にするためです。企業に雇われるとどうしても時間の制約を受けます。せっかく対馬に来たのに、忙しくて子どもとの時間がなくなるのでは、本末転倒だと思ったんです。

加えて、協力隊の先輩にダンス教室を始めた方や、旅行会社を設立した方、島でデザイナーになった方々がいたことも影響しています。協力隊を退任するときに起業の支援が受けられるので、せっかくなら自分で仕事を作ってみようと思いました。

人生に一度きり、を案内する仕事

——退任後の起業に向けて、任期中から意識して動いていたことはありましたか?
(橘田)長らく観光業界に身を置いていたので、起業するなら観光関連の仕事を、と考えていました。元協力隊の方が旅行会社を経営していたことをきっかけに、まずはバスツアーのお手伝いをしたりガイドの研修に参加したりして、ガイドの仕事を学びました。当時から英語ガイドがいなかったので、英語圏のお客様がいるとお仕事をいただくこともありました。

そして、協力隊を退任した2025年、英語ガイドで起業をしています。今でもその旅行会社とは、英語圏のお客様を紹介してもらう関係が続いています。

——島内では満たせていなかった英語ガイドのニーズが、橘田さんの経歴やスキルと上手くマッチしたんですね。独立した現在、お仕事の状況はいかがですか?
(橘田)これからというところですね。月に1〜2組ご案内するときもあれば、全然ご依頼がなくて今月どうしよう…というときもあります。今は友人のゲストハウスのお手伝いもしています。ただ、対馬は東京よりも生活コストが低いので、それほどガツガツ働かなくても生きていける面があるのも事実です。

——ちなみに、英語ガイドで案内するのはどういった場所なのでしょうか?
(橘田)お客様の国籍はアメリカ、イギリス、ニュージーランド、香港、中国などさまざまなので、一人一人の関心に合わせて島内をご案内しています。英語圏のお客様はゲーム「Ghost of Tsushima」(※)をきっかけに来る方が多いので、舞台になった場所を案内することが多いですね。

ガイド中の様子

「Ghost of Tsushima」はストーリーが史実に基づいていて、実在の地名も使われているんです。例えば、元寇で蒙古軍が攻めてきた小茂田浜や、ゲーム内で拠点になった金田城は実在の場所。それを説明しながら案内すると「本当の話だったんだ!」と驚かれます。

ひとりひとり興味関心や刺さるスポットも違うため、ご要望をしっかりお聞きしてからガイドするようにしています。

Ghost of Tsushima:2020年に発売され、世界で大ヒットしたゲーム。元寇を題材に、主人公が故郷・対馬を守るために戦う。

——ガイドするうえで大切にしていることはありますか?
(橘田)特に遠方からのお客様は、人生で一度しか対馬を訪れない方がほとんどです。こんなに遠くまで来てくれたからこそ、たった一度のチャンスとして、悔いなく対馬を満喫してもらうことを心がけています。

最近でも、ハネムーンで対馬を訪れてくれたお客様がいらっしゃいました。ただ、その時期はずっと天気が悪くて、ガイド中も雨ばかり。それでもなんとか喜んでもらいたくて、急きょ島のレストランに協力していただき、夕食にケーキを出すサプライズをしました。島という環境、なおかつ短時間でケーキを準備するのは難しかったですが、とても喜んでいただけたので良かったです。

——一生に一度の体験になるかもしれないからこそ、思い出に残る体験づくりに心血を注いでいるのですね!

「はじめてのおつかい」には失敗したけれど

——島暮らしや協力隊に興味があるけれど、一歩踏み出せないという方に、先輩として何かアドバイスはありますか?
人がすごく優しいので、それほど心配しすぎなくても大丈夫なんだと思います。
私自身も対馬の方たちに救われてきました。

対馬は人と人の距離が近くて、どこに行っても知っている人に会うんです。スーパーに行くだけで何人もの知り合いに声をかけられて、そのたびに立ち話が始まるので、なかなか家に帰れないこともあります。どこに行っても知り合いだらけという環境のおかげで、安心して子育てができていますね。

以前、近所のスーパーまで子どもに「はじめてのおつかい」をさせようと思って、夫と一緒に隠れて見守っていたことがあったんです。ところが、近所のおばちゃんが子どもとしっかり手をつないで、最後までずっと付き添ってくれて。その温かい気持ちが嬉しかったんです。「はじめてのおつかい」としては失敗でしたけど(笑)

勇気を出して飛び込んで、周囲とコミュニケーションをとっているうちに、島での生活に馴染んでくると思います。

——微笑ましいエピソードですね。これから対馬でやってみたいことはありますか?
まずはガイドの仕事を軌道に乗せることですね。協力隊の任期中、屋久島や長崎など、他の地域で英語ガイドをしている方のところへ視察に行ったんです。そのとき、「ガイドとしてちゃんと忙しくなるには、2年くらいかかるよ」と言われて。なので、それまで自分にできることをコツコツとやっていきたいと思っています。

将来的には、対馬で英語ガイドができる人をもっと増やしていきたいです。私自身がガイドをしていて感じるのですが、特に英語圏のお客様は、対馬の観光と相性が良くて。

——相性が良い、というと?
実は、現在韓国から来られている方の多くは、「日本」での買い物が目的です。彼らは韓国から近いため対馬を訪れますが、正直、対馬に買い物向きの場所はそれほど多くありません。

私が思うに、対馬の良さは豊かな自然や、国境の島で築かれた歴史にあると思うんです。それゆえ、買い物よりも、自然体験や神社巡りに興味を持つ英語圏の方は、対馬と相性が良いのだと感じています。

実際、欧米からの観光客には長期間滞在して「何もないこと」を楽しむ方も多く、そういった方を受け入れる環境の必要性を強く感じているので、一緒にそうした受け入れ体制を作れる仲間を増やしていきたいですね。

企画・取材・執筆:卜部奏音
企画・編集:ハテシマサツキ

VISIT TSUSHIMA
HP:https://visit-tsushima.com
Instagaram:https://www.instagram.com/visit_tsushima?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D

※はなれじま広報部では離島という文脈で、島内外の企業とのコラボレーションやタイアップ記事の制作を承っています。プロモーションを超えたPRをご一緒に。お問い合わせをお待ちしております。

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