「佐渡島に住むとは思わなかった」- 街を出て、それから。#1

離島メディア「はなれじま広報部」では、離島で活動する地域おこし協力隊の方にリアルなお話を聞く「街を出て、それから。」という新連載を開始しました。記念すべき第1回でお話を伺うのは、大学院生としてフィールドワークをするかたわら、佐渡島(新潟県)で地域おこし協力隊として活動する大久保さん。

偶然ともいえるきっかけで佐渡に渡り、その魅力に引き込まれていったひとりの大学院生が迎える、はじめての冬に迫ります。


▼佐渡市地域おこし協力隊 大久保怜 氏
2000年、栃木県宇都宮市生まれ。18歳まで宇都宮で過ごし、東京学芸大学への進学を機に東京へ。大学・大学院で文化人類学を専攻し、佐渡島をフィールドに研究を続けるかたわら、2025年からは佐渡市の地域おこし協力隊として活動している。

佐渡へと、のめり込む

——まずは、大久保さんが最初に佐渡を訪れた際のお話を聞かせてください。
(大久保さん:以下、敬称略)最初に佐渡に来たのは、2024年9月のことでした。大学院で文化人類学を専攻する中、必修のフィールドワークで佐渡市・潟上地区に滞在することになったんです。他にも行き先の候補はありましたが、佐渡のフィールドワーク日程が私のスケジュールと合ったため、参加を決めました。

フィールドワーク中は、潟上地区内にあるコミュニティ施設「たまりば 子ども未来舎『りぜむ』」に滞在しながら、地域の方との交流やイベント開催に取り組みました。

——潟上地区に来てみて、率直にどんな感想を持ちましたか?
(大久保)子どもたちのワイルドさにびっくりしました(笑)。『りぜむ』の敷地内には竹でできたジャングルジムやブランコのような遊具があるのですが、その上で子どもたちが全力で遊び回っていて。宇都宮や東京では見たことがない光景で、竹でなんでも作る大人と、竹に全幅の信頼を置いて遊ぶ子どもたちにカルチャーショックを受けました。

竹でつくられた遊具

——それは驚きですね(笑) その後、佐渡とはどのように関わっていったのでしょうか。
(大久保)初回のフィールドワークの際、「もっとこの場所に触れたい!」と思い、滞在期間を延長しました。そして、延長した滞在期間が終了してから1か月後、ひとりでもう一度佐渡を訪れ、『りぜむ』や潟上地区の普段の姿を見せてもらいました。

その際、ちょうど潟上地区で地域おこし協力隊を募集していることを知って、佐渡暮らしを意識するようになりました。文化人類学の修士論文を書く上では、特定の地域に長期滞在して研究をする必要があったので、そのフィールドとしてもぴったりだと思ったんです。

——これまでとはまったく異なる環境に飛び込む不安はありませんでしたか。
(大久保)もともと環境の変化が得意ではないタイプだったので、正直不安はありました。ただ、佐渡での暮らしを始めると、その不安は吹き飛んでしまいましたね。佐渡に限らず、これから地域おこし協力隊として移住をする方には、「考える前に飛び込んだ方が楽になれる」と伝えたいです。

——今は、地域おこし協力隊として活動しながら、佐渡の人たちの暮らし方を研究しているのでしょうか。
(大久保)当初はそのつもりでいて、潟上地区の人たちがどのような暮らしをしているかを研究の対象にしようと思っていたんです。でも、潟上という場に身を置いているうち、次第に研究者ではなく生活者としてこの地区に関わりたいと思うようになりました。

——では、研究テーマはどうなったのでしょう?
(大久保)暮らしを軸にはしつつ、人ではなく野草やその使われ方を研究対象にすることにしました。ご年配の方たちにお話を聞いていると、昔は野草から軟膏を作ったり、食用としたりしていて、必然的に野草の知識も蓄積されていたようなのですが、近年野草の活用機会が少ないこともあり、知識の伝承が途絶えようとしているそうで。そこで、研究や聞き取り調査を通して、暮らしに密着してきた佐渡の野草文化を残したいと思いました。

——その観点も、移住して暮らしに触れたからこそ生まれたものかもしれませんね。

潟上の人たちを集落で見守るのが、私の役目

——地域おこし協力隊としての活動はいかがでしょうか。
(大久保)主な活動は潟上地区の見守りです。集落としては、高齢の方々が安心して暮らし続けられるよう、見守りや日常的なつながりづくりを大切にしているそうで、地域の高齢の方々との関係づくりに取り組んでいます。普段は、みなさんが住むお家に出向いてお話したり、庭仕事を手伝いながら近況を聞いたりしています。


(大久保)あとは草刈りやイベント、買い物支援など、地域活動にも取り組んでいて、最近はパンの出張販売を始めました。お店に行きづらい高齢者のみなさんから「楽しみにしている」という声をいただき、お役に立てているようで嬉しいです。

——地域の方に密着した活動内容ですね。溶け込むのは難しくなかったですか?
(大久保)それが、意外と馴染むまでは早かったんです。みんな固かったのは最初の訪問時だけで、2度目には親しく話してくれるようになりました。もしかしたら、昔から流人を多く受け入れてきた佐渡の「迎え入れる」文化が影響しているのかもしれません。

——移住者視点でも、溶け込みやすくて良い環境ですね。

人生観を変えた島暮らし

——続いて、暮らしのお話もお伺いしたいです。佐渡移住で感じた最も大きな変化は何でしょうか。
(大久保)「音」ですね。これまで、宇都宮や東京で暮らしてきたので、車が通る音や足音など、人間が出す音が絶えず聞こえていることに慣れていたのですが、佐渡では朝起きた瞬間から、びっくりするほど静かで。特に冬は雪が音を吸うので、静けさに包まれている感覚があるんです。

——自然豊かな場所ならではですね。
(大久保)実際、思わぬところで自然を感じるシーンは多いです。先日、車を運転していたら、道路を小さな動物が横断しているのが見えたんです。近づいてみたら亀で、のそのそと道路を渡り終えるのを、私と対向車のトラックが待つ時間がありました。

——素敵な瞬間ですね。時間がゆったり流れているというか。
(大久保)そうですね。これまで生活してきた場所と佐渡では、明らかに時間の流れが違うように感じています。潟上地区に住むみなさんからすると、70代すら若手だというのも驚きでした。佐渡に移り住むまで、同年代と比較して苦しくなってしまうこともあったのですが、島でこうした時間軸に触れていると、数年なんて誤差だと思えるようになったんです。そこから、周囲と比べることがなくなったので、気持ちが軽くなりました。

——とても良い変化ですね。反対に、苦労していることはありますか?
(大久保)いまだに、言葉の違いには慣れない部分があります。例えば、佐渡では捨てることを『びちゃる』と言うんです。「それ、びちゃっといて」と言われたものの、何をどうしたらいいのか分からなかったことがありました。


(大久保)加えて苦戦しているのは、研究対象としている植物の名前にも佐渡弁があることです。里山に花を咲かせる「ユキワリソウ」という植物があるのですが、佐渡ではそれを「チゴロン」と呼ぶそうで。聞き取り調査をしていても、どの植物の話をしているのか分からず、うまく研究が進まないこともありました。ただ、そうした言葉の違いも佐渡という地に身を置いて研究する面白さだと思うので、楽しみながら慣れていきたいです。

はじめての冬を迎える


——佐渡で迎えるはじめての冬となりますが、どう過ごされるのでしょうか。
(大久保)潟上地区を外と内の両面から見た際に感じたことや、おばあちゃんたちの伝承などを書き残したZINE(自主制作出版物)を作ろうと思っています。日々、新たな発見や伝え聞くことも多いですが、私が知っているだけではもったいないと思うんです。そのため、聞いたことを言葉にして、残しておくことにしました。

「はなれじま広報部」の姉妹メディア「はなれじま大学」でも、佐渡の暮らしを等身大の言葉で表現していただきました。大久保さんが綴る、佐渡の冬。ぜひ読んでみてください!

——宇都宮に比べると雪や曇りの日も多い佐渡の冬、不安はなかったのでしょうか。
(大久保)正直不安はあって、「本当に冬を越せるのかな」とずっと思っていました。でも、佐渡には佐渡なりの過ごし方があって、薪ストーブを眺めたり、仲間たちと集まって鍋を囲んだり…外に出る機会が減る分かえって時間を確保しやすくなって、いつも以上にコミュニケーションを取りやすくなったのかもしれません。


(大久保)そんな時間を過ごしているうち、自然と交流が生まれるような、地域に根ざしたカフェを開きたいという思いも出てきました。潟上という集落でなら、このイメージを形にできるような気がします。

あとがき(卜部 奏音)

大学院のフィールドワークで訪れるまで縁もゆかりもなかったという佐渡に1人で移住を決めた大久保さん。その行動力に驚きましたが、「始める前が一番しんどい。行ってしまえばなんとかなる」という言葉に「どの分野でもそうかも」と思わず納得しました。

お話を伺う中で印象的だったのは、「70代が若手なんだったら、私、あと50年は若者だなと思って。これまで自分の年齢に焦りを感じていましたが、力が抜けました」という言葉。「同世代の比較対象がいないからこそ、焦らずのびのびと生きていける」という視点に、ネガティブに捉えられがちな「若者が少ない」という島の要素も、見方次第では魅力になり得るのだと教えてもらいました。

企画・執筆:ハテシマサツキ
企画・取材・編集:卜部奏音

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