ふと自分自身の生き方を顧みたり、周囲と比較したりしたとき、「本当にこのままで良いのだろうか」と考えてしまう——誰しも一度は経験するであろうこの悩みを、離島でのリトリートを通して見つめ直すツアーが開催されました。
その名も「よく生きる、を見つめる旅。— 直島リトリート —」。教育事業を展開する株式会社ベネッセコーポレーションと、オンライン学習サービスを提供する米国Udemy社の業務提携開始の10周年を記念したツアーです。
全国800名以上の応募者から選ばれた20〜50代の男女13名が参加した本ツアーに、はなれじま広報部のハテシマサツキが同行。アートや自然、人々のつながりが島内に散りばめられた直島(香川県)で、心境にどんな変化がもたらされるのか、ひとりの参加者に密着してお伝えします。
*2020年国勢調査に基づく
参加者に密着。人生の指針を見つける島旅

今回、私が同行取材したのは、神戸でWEBデザイナーとして勤務する30代女性・太田さん。仕事やプライベートで、周囲と比較して「停滞感」や「計画性のなさ」を実感することが多く、もやもやした気持ちを抱えてこのツアーに参加したそう。1泊2日のツアーで、自力で道を切り開くきっかけを得ることはできるのでしょうか。
Day1 12:30 『赤かぼちゃ』前でのワークショップ
集合・昼食後、参加者たちが集まったのは直島を代表する、草間彌生 作『赤かぼちゃ』前の芝生。
Udemyで手帳を使ったジャーナリング(書くことで気持ちを整理するセルフケア)の手法をレクチャーするベストセラー講師「クリームソーダ 手帳のある暮らし」さんの「まずは、深呼吸をします」という第一声で、ワークショップが始まりました。

みなさん座ったり、寝転んだり、かぼちゃの方を向いたり…思い思いの姿勢で深呼吸をします。ひと呼吸にかける時間を長くすればするほど、呼吸そのものの難易度が上がって、息を吸い、吐くことだけに意識が向いていく感覚。

「クリームソーダ」さんいわく、呼吸に集中している間は過去でも未来でもなく「いま」にフォーカスできるとのこと。
…たしかに。
呼吸のことだけ考えていたら、いつの間にか、普段頭をぐるぐるしていたことから離れていました。
Day1 13:30 ベネッセハウス ミュージアムでの対話型鑑賞
続いて一行が向かったのは、島の南部にある美術館「ベネッセハウス ミュージアム」。美術館といえば、1人で黙々と作品を鑑賞するイメージがありますが、このツアーではどうやら違うアプローチをするみたいです。

ここで用いられるのは「対話型鑑賞」という手法。作品をどう解釈したか、自分が作者ならどんなメッセージを込めるか…。ファシリテーターの進行に合わせて考えを語る「話す作品鑑賞」です。
作品の捉え方に正解はなく、それぞれの目で見たものや感じたことを「何が起きているか」「なぜそう思うのか」と順を追って言葉にしていきます。どんな意見も参加者全員で尊重し、考えを深掘りしていくことで、作品を通した自己の客観視を進めることができるのです。

太田さん、同じグループになった人たちとなんだか楽しそう。とある作品の前で盛り上がっています。
「この人は失恋していて、それをみんなで慰めていて…」
どうやら、描かれた人物にオリジナルのストーリーを投影しているようです。アート作品の鑑賞をしている雰囲気ではないようにも思えますが、これも立派な対話型鑑賞。作品の鑑賞を通して、太田さん自身も、自らの想像力が豊かなことを知ったようです。
Day1 16:00 ベネッセハウスにチェックイン

美術館を後にして、敷地内にある宿泊施設「ベネッセハウス」にチェックインします。夕食まではしばらくの自由時間。客室にいるのもよし、散歩するのもよし。みなさん思い思いの時間を過ごしていました。
そしてなんとこの宿泊施設、客室すべてに本物のアート作品が展示されているんです。テレビのない客室内でこころゆくまで作品に向き合うことができる、とても贅沢な空間。部屋に設置されたQRコードを読み込み、感じたことを入力すると、過去同じ客室に宿泊した人のコメントを見ることもできます。客室にいながらにして「対話型鑑賞」に触れられる仕組みも面白いです。
Day1 18:30 レストランでディナー

ディナーはレストランでコース料理を。
新鮮な真鯛や豊島(香川県)で栽培されたライムなど、海の幸や山の幸をふんだんにつかった品々に舌鼓を打ちます。

「めっちゃビジュ良い!」「これおいしい〜」
太田さんをはじめ、みなさん歓談しながら食事を楽しんでいました。
出された料理のことや、1日のプログラムについて。そして、仕事や人生のことも。料理を口にしながらだと、普段よりも会話のハードルが下がるのかもしれません。
そして、コースが終盤に近づくにつれて日は暮れ、島には静かな夜がやってきます。
1日目の全体行動はこれにて終了です。
その後、太田さんたちは『南瓜』やベネッセハウスミュージアムで、ツアー参加者のみなさんと夜のアート鑑賞を楽しんでいました。
(なんと、ベネッセハウスに宿泊するとベネッセハウスミュージアムを23時まで見学できるんです!)
Day2 10:00 自由行動でアート鑑賞 & 島内散策
2日目は朝から自由行動タイムが始まります。
太田さんは2025年に開館した「直島新美術館」に行くそうなので、同行することにしました。
館内を歩きながら、じっくり作品に向き合う太田さんは、「これまで美術館に来ても、仕事柄デザイン的な目線で見てしまっていたから、自分自身の内面と向き合う形の鑑賞ができたのは新鮮」とぽつり。
対話型鑑賞の影響も大きかったようです。「やはり作品を見ると、私の頭の中で勝手に物語が広がっていく」と太田さん。館内で同行取材していても、絵のタッチから作者のメッセージを読み取るなど、想像力が豊かなことを感じるシーンがありました。
一方、島内に展示されているアート作品の中には、鑑賞者が持つ直感や常識を裏切るようなものもあります。社寺と城址の跡地に設けられた、ジェームズ・タレル作『バックサイド・オブ・ザ・ムーン』もそのひとつ。真っ暗な空間の中に佇み、浮かび上がる光を探す作品です。

『バックサイド・オブ・ザ・ムーン』が展示される『南寺』
同作品鑑賞後、太田さんは「私が持つ感覚はあまりにも曖昧で、こんなものに頼って生きているのかと思うと怖かった」と話してくれました。直島での作品鑑賞が、五感や物事の捉え方を揺さぶる経験になっているようです。

作品間を移動する間に、街並みから島の暮らしに触れる場面も。穏やかな春の風に洗濯物がはためく様子を見て、「ああいうの、良いなぁ」と太田さんの表情が緩みます。

これまで神戸で過ごしてきた太田さんにとって、海は身近な存在でしたが、島の海はまた違って見えるそう。「車がたくさん走る大きな橋(明石海峡大橋)もないし、のんびりした空気が流れていて、癒される」とのこと。
Day2 14:30 締めくくりのワークショップ

「直島リトリート」最後のプログラムは、講師の「クリームソーダ」さんの進行による、振り返りのワーク。参加者ひとりひとりが、直島で過ごした時間の中でも心が動いた瞬間をピックアップして、各々が大切にしている価値観を言語化していきます。太田さんは、いったいどんな気づきを得られたのでしょうか。

直島での滞在中、最も印象に残ったのは、他の参加者にもらった言葉だったそう。人生に立ちこめる停滞感に焦りを感じていると打ち明けたところ、ある40代の参加者から「30代で停滞感があるってすごい。それだけ人生に向き合ってる証だよ」と言われたのだとか。
「停滞感をポジティブに捉えたことがなかったので、目から鱗でした。」
そこで気がついたのは、ついついネガティブな方向に想像力を膨らませてしまう癖があること。仕事ではその特性がリスク回避のために良い方向に活きていたものの、プライベートでは「周囲にどう思われるだろうか」「自己開示をしたら嫌われるかも…」と気持ちを沈める原因になってしまっていたのです。
そんな太田さんに投げかけられた率直な言葉は、「無理に進まなくて良いんだ」と思うきっかけをもたらしました。
密着取材の最後、太田さんにこんな質問をしてみました。
——このツアーに参加してよかったことは何でしょう?
(太田さん:以下、敬称略)私自身、思っていたよりも人が好きだったことに気づけたこと、そしてもやもやしていても前向きな人たちに出会えたことです。これまでずっと「進んでいない=良くない」と思い込んでいたので、焦っていた私の常識が、根底からひっくり返るような言葉をもらいました。
——良い出会いになりましたね。
(太田)そうですね。私はこれまで、抱いたもやもやを同世代の友人や同僚には絶対に話せなかったですし、話したとしても「停滞がすごい」なんて言われなかったと思います。幅広い世代の人たちが「はじめまして」する環境だからこそ、受けられた刺激かもしれません。
そう話す太田さんの表情は、心なしか1日目よりも明るく見えました。

いま、離島でリトリートが必要な人とは。
太田さんを含め、何らかの「もやもや」を抱えて全国から集まった13名の参加者たち。直島で過ごした1泊2日という時間は、それぞれの人生にどのような意味をもたらすのでしょうか。そして、アートの島である直島で、この企画を実行した意義とは。主催者や講師にインタビューしてみました。
企画担当者に聞く、社会人にリトリートが必要な理由
「直島リトリート」を企画・運営した株式会社ベネッセコーポレーション・社会人事業本部の作田 美耶子さんに、企画立ち上げの経緯やツアーの手応えについてお聞きしました。

——ベネッセとして、この企画を立ち上げたきっかけを教えてください。
(作田さん:以下、敬称略)教育サービスを中心に幅広く事業展開をしている私たちはこれまで、基本的には「学びたい」と思う方々に向けたメッセージを発信してきました。
ただ、もう少し視野を広げて、ひとりひとりが持つ可能性や自信など、学ぶ上での礎になる「学びの一歩手前」にも目を向けるべきだと感じていたんです。実際、調査をすると学ぶ以前に「自分の現在地が分からない」という悩みを抱える方が多いことが分かりました。
そんな中、Udemyとベネッセの業務提携開始から10年という節目を迎えたこともあり、改めて学びの前段階の「もやもや」を抱えた大人に対するアプローチを考えてみました。私自身、ベネッセの社員研修で訪れた直島での対話型観賞をはじめとするアートの鑑賞体験が印象的だったので、直島という場でアート作品を通して自分に向き合う企画をすることに決めました。
——実際、もやもやを抱えて応募した方は多かったのでしょうか。
(作田)想像以上でしたね。実際、このツアーには800人以上もの方にご応募いただきましたが、その中でも人生の「もやもや」を抱えている方はかなりの数いらっしゃいました。

——その中から、どのような基準で参加者を選んだのでしょうか。
(作田)まず応募者の方の志望理由に全て目を通しました。すると、年代ごとに悩みの傾向があることに気がついたんです。たとえば20代は「大学で学んだ内容を仕事に活かせないことに対する不安」、30代は「家庭とキャリアのバランスや、周囲との比較で感じる焦り」、40〜50代は「改めて自分の時間ができた時に何をすべきか分からないという悩み」…。
こうした各年代の代表的な悩みを持った方を選定しました。なおかつ、「もやもや」に対して諦めではなく前向きに向き合っている人が良いなと思って。言葉の端々にあらわれる人となりを含め、特に私たちが「会ってみたい!」と思った方を選ばせていただきました。
——実際にツアーを行って、手応えはいかがでしょうか。
(作田)実際、悩みに対して前向きな方に集まっていただけたことに加え、参加者同士の交流に対するみなさんの満足度も高かったようで非常に喜ばしいです。プログラム外でも正解のない問いに対して考え、意見交換をする時間を自発的にとっていただけていて、直島でのリトリートに対する可能性を感じました。
——悩みは違えど、悩みに向き合う熱量が参加者同士で揃ったことがうまく働いたのかもしれませんね。ありがとうございました。
講師目線で見つめる、島を会場とする意義
今回「直島リトリート」でワークショップの進行を務めた、Udemyのベストセラー講師「クリームソーダ 手帳のある暮らし」さんにもお話をお伺いしました。日常から離れた「島」という場所だからこそ生まれた変化について、講師の目線から振り返っていただきます。

——今回の「直島リトリート」を通して、感じたことを教えてください。
(「クリームソーダ 手帳のある暮らし」さん:以下「クリームソーダ」)「日常のスイッチをオフにして、自分と向き合う時間の大切さ」を、改めて実感した2日間でした。印象的だったのは、参加者の皆さんの表情が少しずつやわらかくなっていったこと。
ただ静かな場所に行くのではなく、自然の中でリラックスしながらアート作品を通して他の参加者や自分自身と対話できたことで、気持ちがほどけていったのだと思います。
2日間でも十分に濃い時間でしたが、正直なところ「もっとこの場所にいたい」「もっと時間をかけて考えを深めたい」と感じる、私にとっても特別なリトリートでした。
——直島で講座を行うことには、どのような意義があったとお考えですか。
(クリームソーダ)普段の生活では、どうしても頭で考えることに偏りがちです。けれど、必然的に五感を働かせざるを得ない場に身を置くと、「感性のセンサー」が研ぎ澄まされていくと思います。
特に自分の感覚を言葉にしていくプロセスは、心をリラックスした状態に導く自然と、感覚を刺激するアートが隣り合わせに存在する直島だったからこそ、より深く、より正直なものになったように思います。会議室では、同じような効果は見込めなかったのではないでしょうか。

(クリームソーダ)参加者それぞれが直島という場の特性を活かして「いま」を見つめ直すことで、改めて自分の可能性に気づいていく。その過程を間近で見られたことに、直島で講座を行う大きな意義があったと感じています。
——こうした離島でのリトリートは、どんな人に必要だと思いますか。
(クリームソーダ)「今のままでいいのかな」と生き方に迷いを感じる方や、毎日が忙しすぎて、本当にしたいことが分からなくなっている方。悩みや不安にどう向き合えばいいか分からず、足踏みしてしまっている方など…「少し立ち止まって、自分をアップデートしたい」と感じている方にぴったりだと思います。
「自分でなんとかしなきゃ」と頑張りすぎている人ほど、少し力を抜き、自分自身とゆっくり対話する時間を持ってみてほしいです。島には余計な情報が少ないからこそ、そうした「余白」を自然につくってくれる力があると感じました。
——たしかに、島という空間は自身と向き合う余白にあふれているのかもしれません。ありがとうございました。
進むために、島で立ち止まる。

2日間にわたる「直島リトリート」で、参加者のみなさんと行動を共にして感じた本ツアーの意義は、自身を客観視する手法を知ることに加え、互いにリスペクトを持って対話できる人たちが集まったことにありました。この場には、悩みや夢を笑う人は一人もいません。
純粋な心を持ち、素直でいるほど生きづらいこの世の中で、それでも前に進んでいくためには、一度立ち止まって改めて自分自身に向き合ってみるのも手かもしれません。
そのフィールドとして、島という場所の可能性を感じた取材でした。
企画・取材・執筆:ハテシマサツキ
編集:卜部 奏音
協力:株式会社ベネッセコーポレーション、公益財団法人 福武財団、「クリームソーダ 手帳のある暮らし」
※はなれじま広報部では離島という文脈で、島内外の企業とのコラボレーションやタイアップ記事の制作を承っています。プロモーションを超えたPRをご一緒に。お問い合わせをお待ちしております。





