【長島】 高級ブランド魚「鰤王」を全国へ羽ばたかせる「売る仕組み」とは

長島:ブランド魚を売る仕組みがカギに

今回はなれじま広報部がやってきたのは、鹿児島県の北端に位置する長島。長島列島の中心的な島で、地元では「本島」「長島本島」と呼ばれています。アオサや島みかんなど、美味しいものがたくさんある長島ですが、最も有名な食べものはブランド魚である「鰤王(ぶりおう)」です。

地元住民のみならず、北陸や関東でも人気を誇る鰤王。決して低価格とは言えないブランド魚が全国規模で買い求められる秘訣は、どこにあるのでしょうか。今回は、株式会社JFA(JAPAN FOOD ARTISAN)の田島太晴さんにお話を伺いました。

▼株式会社JFA 販売事業部 EC担当 田島 太晴氏
鹿児島県長島町出身。株式会社JFAに入社して以来、全国の市場やスーパーマーケットへの卸売に携わってきた。直近ではふるさと納税を含むEC事業および鮮魚の販売企画を担い、特にぶりの販売を担当。

エサにこだわって育てられる長島の鰤王

——鰤王とはどのような魚なのでしょうか。
養殖ブリで生産量日本一となった、長島が誇るブランド魚です。年間約1万2千トン以上の生産高があり、九州はもちろん、中国地方や北陸、北は関東にまで出荷されています。

鰤王が他のブリと異なる点は、高品質なエサにあります。東町漁協では鰤王の品質を向上させるために、オリジナルの飼料を開発しました。原料のグレードや成分量を徹底的に規格化することで、高品質かつ安定した生産を可能にしています。

——ただ、一般的なブリよりもやや高額な気がします。
確かに、鰤王は決して安価な魚ではありません。しかし一度食べていただけると「こんなに美味しいブリは初めて食べた」と言っていただけることが多く、繰り返しご購入いただくお客様も多いです。生産者が家族総出で愛情を込めて育てているので、スーパーなどで見かけた際はぜひお手に取っていただきたいです。

 

JFAが果たす役割

——鰤王の「売り方」についてお聞かせください。
長島には、東町漁協という漁業協同組合の他に、株式会社JFA(以下、JFA)という組織があります。JFAは東町漁協とパートナー企業が出資して立ち上げた会社で、市場外の販路開拓や広報活動をメインに行っています。

一般的に、水揚げされた魚は漁協を通じて販売されることが多いかと思います。JFAができる前は私たちも同様でした。しかし、販売・営業活動を各部門でバラバラに行っていたり、受注対応以上の販路が開拓できなかったりと、さまざまな問題がありました。そこで販売専門組織として2015年に立ち上げたのがJFAです。

——JFAの立ち上げ後はどのような変化がありましたか。
営業の体制を強化することができたことが大きいですね。以前は鮮魚担当と加工品担当の営業が1人ずつしかいませんでした。現在はエリア別に4〜5人の営業担当がおり、北陸関東以南の地域を広くカバーすることができています。

また、JFAが設立されたことにより、鰤王をはじめ水揚げされた魚の価格安定にもつながっています。東町漁協として買参権を持っているので、JFAは競りに参加することが可能です。市場を盛り上げて値段を安定させられる効果があり、生産者の所得向上にもつながっています。


 

ECサイトの売上は年間8,000万円

——鰤王はECサイトでも販売されていると聞きました。
2017年頃に「長島大陸市場」というECサイトを立ち上げました。鰤王をはじめとした鮮魚や、加工品を販売しています。直営している自社ECサイトは長島大陸市場だけですが、ふるさと納税申し込み用のサイトにも返礼品として商品を出品しています。

ふるさと納税を含めたECサイト全体の売り上げは、年間約8,000万円です。売上の比率は自社ECが3割、その他ふるさと納税が7割です。特に年末には多くのご注文をいただいています。


——ECサイトではどのように集客していますか。
離島フェアや九州物産展などのイベントで鰤王を知ってくださったお客様が、ECサイトを通じて購入いただくことが多いです。漁協が運営するレストラン「長島大陸市場食堂」に来てくださった方がリピート購入してくださることも多いですね。今のところ、私たちのECサイトでは検索からの自然流入数は少なく、リアルの場で鰤王を認知してくださった方の再購入の場として機能しています。

PR活動の鍵は役場との連携と、リアルな場での接点づくり

——東町漁協として大々的に鰤王を広報しているのでしょうか。
東町漁協やJFAも鰤王の広報は行っていますが、実はそこまで大規模なことはしていません。注力していることといえば、長島町役場との連携を強めることです。

長島町役場は、非常に熱心に鰤王を広報してくれています。役場の担当の方とは頻繁に会議をして、販売戦略について話し合っています。長島町でのイベントでも鰤王をアピールしていますし、県外のイベント出店やふるさと納税の広報も役場主導で行っています。


——広報の際に大切にしていることは何ですか。
お客様とのリアルの場での接点をたくさん作ることです。今はインターネット上での広報が主流なのかもしれませんが、鰤王の魅力は一度食べていただいて初めてご理解いただけると思っています。役場と連携したイベントでもたくさん試食をしていただきますし、東町漁協の食堂でも観光客向けに鰤王定食を提供しています。「長島大陸市場食堂」は大人気で、土日は15時頃までランチの行列ができることも多いんですよ。

長島は「石積みと花の町」をテーマに町作りをしていて、見ごたえのある観光スポットもたくさんあります。長島観光の際は、ぜひ食堂にも足をお運びいただきたいです。

——東町漁協の食堂で鰤王を食べたことで、ファンになるお客様も多いのでしょうか。
はい、食堂訪問後に鰤王で検索し、ECサイトでご購入いただくお客様が多いです。購入時にECサイトの備考欄に「びっくりするほど美味しかった」と書いてくださる方もいて、非常に励みになっています。

——お客様にはどのような方が多いのでしょうか。
ECサイトも東町漁協の観光客も、40代以上がメインです。年齢層が高めなので電話やFAXでの注文も受けるようにしています。地域は関東と九州が多いですね。関東圏では大手スーパーでも鰤王を販売していて、パックに鰤王のシールをはっています。スーパーで手にとっていただいて、鰤王のおいしさを知っていただくことも多いです。

 

2024年問題は打撃。ファン作りに注力して鰤王をよりメジャーに

——今後の展望を聞かせてください。
トラックドライバーの時間外労働が制限されることによって輸送力が不足する、いわゆる「2024年問題」は私たちにとって大きな打撃だと捉えています。鹿児島県は日本の端に位置しているので、長らく配送料や配送時間に悩まされてきました。高級な飼料を使っていることから、さらに生産コストが高騰する可能性があるという課題もあります。


より多くのお客様に安心して食べていただくためには、これからも鰤王のファンを増やしていくことが大切だと考えています。鰤王を新たに知っていただくお客様やリピーターのお客様を増やして、よりメジャーなブランド魚を育てていければと思います。

——貴重なお話、ありがとうございました!

食という観点で今後の離島事業者の販促活動を捉えると、やはり購入層への「接点づくり」が重要になってきます。特に魚介類や農作物などは事前情報から味の良し悪しを把握するのは難しいため、食べてもらう機会を積極的に設ける従来の手法は今でも有効だと感じました。

はなれじま広報部では、日本の離島におけるEC・PRの事例をご紹介しています。また、島内外問わずECサイトや広報、コンテンツ制作に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。

取材/編集:ハテシマサツキ
執筆:松井紗李

関連記事

  1. 坊勢漁業協同組合#2

    【坊勢島】私たちが、ブランド魚に力を入れる理由 -坊勢漁業協同組合 上田 章太 #2

  2. 周防大島の若き養蜂家へiインタビュー

    【周防大島】EC展開のきっかけはインフラの壊滅。離島移住した若き養蜂家の挑戦 -株式会社はちとひとと 笠原 隆史

  3. 今井ファーム#1

    【淡路島】楽天を起爆剤にした玉ねぎ農家の「選択と集中」 –株式会社今井ファーム 今井 剛 #1

  4. 後藤鉱泉所#1

    【向島】「地域の宝を、地域の力に。」受け継がれた“幻のサイダー”の味を守るために – 後藤鉱泉所  森本繁郎 #1

  5. 今井ファーム#2

    【淡路島】毎年新商品を発売!収益を生む商品開発のススメ –株式会社今井ファーム 今井 剛 #2

  6. 小豆島オリーブ公園#3

    【小豆島】唯一無二のプラットフォームになるために –道の駅小豆島オリーブ公園 佐伯 哲 #3

インタビュー記事バナー
Instagrambanner
プレスリリースバナー
導入事例記事バナー