2025年7月30日(水)、大阪・京橋にあるオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」には、島根県・海士町(中ノ島)の高校生の姿がありました。
イベント名は『EXPO Dozen 2025〜島からはじまる未来の共創力~』。島での挑戦や失敗、そこから学んだことについて、一般参加者を招いて発表するイベントです。
参加者100人あまりの大盛況となった本イベントを、ハテシマサツキがレポートします。
挑戦の土壌をつくる「失敗の日」

島根県立隠岐島前高校(読み方:おきどうぜんこうこう)では、毎年10月13日を「失敗の日」に制定し、失敗を共に称え合い、未来への挑戦を宣言する1日としています。この「失敗の日」、発祥はフィンランドで、国内では隠岐島前高校が先進的に取り入れたものです。
失敗をしてそこから学ぶためには、まず安全圏から一歩踏み込む必要があります。そのため「失敗の日」には、恐れず挑戦ができるようなきっかけを作っているそう。
2024年度の「失敗の日」には、教員を交えてポエムを作り、発表する機会を設けています。一般的にはあまり公にすることがないポエムという形にするからこそ、失敗する前提で本音をさらけ出せるのかもしれません。
本イベントでも、キーワードは「失敗」でした。単なる成果の発表ではなく、それぞれが定めたゴールに至るまでの過程を失敗エピソードも含めて共有することで、周囲の大人からもアドバイスが生まれやすくなっています。

イベント参加者のルールは、「高校生たちを子ども扱いしないこと」。取り組みに対して、忖度や遠慮のないフィードバックが飛び交う場にしたいという、先生たちの強い想いが伝わってきました。
島の高校生が語る「挑戦の過程」
イベント内では「未来をつくる高校生の挑戦と失敗」として、高校生によるプロジェクトの進捗発表が行われました。それぞれが決めたテーマにおける現在地を、スライドと自分の言葉で伝える本セクション。2つの発表を抜粋してご紹介します。
ケース①試行錯誤しながら進み続ける、放置竹林の活用と今後

地域共創科2年生の小島 亮平さんがスタートしたのは、放置竹林の活用プロジェクト。荒れた竹林を継続的に活用できる仕組みの実現に重きを置き、一度きりのイベント開催ではなく、竹炭作りに取り組むことにしたそうです。
しかし、竹炭づくりの道は平坦ではありませんでした。まずは本やネットの情報を頼りにドラム缶を使って炭化器(炭を作る装置)を自作したものの、いざ焼き上げてみるとすべて灰になってしまうという「失敗」が。原因は炭化器の密閉不足だったそうです。
そこで、次は炭を扱う事業者にアドバイスをもらい、土に水を混ぜて固めることに。すると、2度目のトライではきちんと竹炭ができたそうです。

できた竹炭は、袋を染めるために活用されるほか、今後は土に混ぜて庭の水はけを良くする用途での活用を視野に入れています。プロジェクトを通して学んだことは、「動いてみることの大切さ」。アイデアを行動に移したからこそ、貴重な失敗と学びにつながったことは間違いないでしょう。
ケース②想定とは異なるリアクションから学んだこと

滋賀県出身の樋口 翼咲さんが取り組むのは、島で「厄介者」と呼ばれる野草・アカメガシワの活用。自身が植物に強い関心を持つことをきっかけに、アカメガシワを使った野草茶づくりをスタートすることにしたそうです。
自転車で島を巡り、野草を採取してお茶の試作に励む日々。試行錯誤の結果、納得のいく出来のお茶ができたかと思いきや、試飲した先生の反応は芳しくありませんでした。

さらに改良を重ねながら、お茶作りは続きます。この経験から樋口さんが学んだのは、目的意識の大切さでした。お茶づくりの方向性を見失わないため、「誰のため」に「どんな」お茶を作るのかを明確にすることが重要だと感じたそうです。
高校生たちに感想を聞いてみる
発表を終えた高校生のみなさんに、イベントの感想を聞いてみました。総じて、参加者からのフィードバックが良い刺激になっているようです。
▼丸山 野々子さん
発表をして、フィードバックを受け取ったことで、私の考えと逆の考え方も取り入れることができました。発表の機会が自分のアイデアを磨くきっかけになることを実感しています。

▼平野 響己さん
他メンバーの発表や参加者の方のレベルが高く、投げかけられた質問や意見に厳しさを感じることもありました。しかし、プロジェクトのブランディングや今後の計画について多くのフィードバックを受けたことが、今後の活動に活きると思っています。

▼津村 恵理さん
こうした発表の機会もそうですが、主体性を持ってプロジェクトを進める空気やチャンスが学校中にあります。私自身も、食育のためにニワトリを育てるプロジェクトをしています。プロジェクトの掛け持ちも珍しくないですね。

先生に次の展開をインタビュー
イベント終了後、地域共創科で学級を持つ吉岡先生に、インタビューをしてみました。

——今日の発表では参加者からのフィードバックが多数寄せられていましたが、これを活かす機会ははあるのでしょうか?
(吉岡先生:以下、敬称略)まだまだあります。これは最終発表ではなく、二学期中もプロジェクトは続きます。三年生は入試も控えていますが、毎週木曜日には「共創デー」としてプロジェクトに取り組む時間を作っています。
——最終発表はどのように行われる予定ですか?
(吉岡)まだ未確定ですが、昨年度にならって各自が伝えたい人に、最適だと思うタイミングで伝えるという形をとる予定です。前回は海で発表した生徒もいましたね。

——プロジェクトが後輩に引き継がれることもあるのでしょうか。
(吉岡)多くのプロジェクトは、生徒が卒業すると終了してしまいます。継続性があるものは後輩に引き継ぐこともありますが、本校の生徒は自分のプロジェクトを始めたくて入学している側面もあるので、引き継ぎは難しいのが現状です。
——最後に、今回のイベントの手応えを教えてください。
(吉岡)今回、生徒たちに対して今後に活きるようなフィードバックをたくさんいただき、とても嬉しく思っています。こうした機会は今後も設けていきたいですね。私たち教員も良い刺激になりました。
——ありがとうございました!
失敗から学び、次の「失敗」に向けて進む。

「挑戦に失敗はつきもので、失敗体験からは多くのことを学べる」と口で言うのはたやすいものの、実際に行動へと移すことは非常に難しいといえます。このイベントを通して、私自身も「動き、失敗する」ことの大切さを再認識できました。
会場では「あの人の質問ちゃんと答えたかった…悔しい」と話す声も聞こえてきました。もしかすると、イベント内でも「失敗」をした生徒がいるかもしれません。失敗を前向きに捉えて共有し合える仲間と共に進む、隠岐島前高校生たちの今後が楽しみです。
取材:岡崎 竜久(デザイナー・デザインスタジオPuzzle Effect代表)
取材・執筆:ハテシマサツキ
協力:隠岐島前高校のみなさん






