【直島】離島でアート思考に挑戦!

瀬戸内海に浮かぶ直島は、現代アートの聖地として知られており、島内には草間彌生の「南瓜」や地中美術館など、感性を刺激する作品が点在しています。はなれじま広報部のデザイナーは、そんな直島に、アートを「鑑賞する場」だけでなく、「考え方を鍛える場」としての可能性を見出しました。本記事では直島の美術館で、はなれじま広報部のメンバーがアート思考に挑戦し、新たな発想や視点を得る手法を肌で体感した様子をお届けします。

アート思考とは?

アート思考とは、端的に言えば「感性と言語化能力を育てる思考方法」のことです。
特にビジネスの場においては、デザイン思考やロジカルシンキングなどの思考法が、課題解決のために用いられているのに対し、アート思考の用途は毛色が異なります。

アート思考は課題解決の思考方法というより、アートを通して創造力を身につける教育方法として活用が進んでいるのです。特に期待できるのは、「アイデアの生み出し方」「言語化能力」「多角的な視点」という3つの視点での成長です。

今回、私たちはアート思考のフレームワークの一つ『ビジョンスケッチ法』を元に散策を進めてみます。
通常、ビジョンスケッチは【問題提起力】【想像力】【実現力】【対話力】の4つフローで行われますが、入門編として、それらをを噛み砕いた下記のフローで進行します。

①興味:気になる作品を探して言語化し、意見交換してみる
②発見:なぜ?興味を持ったのか深掘りしてみる
③言語化:アーティストの気持ち・思考法を考えてみる
④内在化:「自分ごと」にしてみて考えてみる

アーティストが作品を生み出した時の思考を読み取り、多角的な視点とアーティストの思考回路を身に付けていきます。

はなれじま広報部のメンバーでアート思考に挑戦


舞台はアートの島と呼ばれる直島の、地中美術館とベネッセハウスミュージアム。
私、デザイナー岡崎と編集長・ハテシマサツキは地中美術館で、インターン生2名(柳 陽菜・りこ)はベネッセハウスミュージアムで、アート思考の実践に挑戦してみます。

美術館を前にワクワクしているはなれじま広報部の面々ですが、入館する前に一つルールを決めて鑑賞することにしました。

そのルールとは「作品を調べないこと」です。

通常、美術鑑賞では事前に作品に関する情報を調べて「なるほど、そういうことを表現しているのか」と楽しむ事が多いですが、今回はアート思考の練習。事前情報なしで直接、作品と対話してもらおうと思います。

地中美術館


地中美術館には、絵画や彫刻はほぼ展示されておらず、インタラクティブアートを中心に構成されています。インタラクティブアートについて、近年の有名な例で言うとチームラボが手がけるような「体験できる作品」がイメージしやすいでしょう。

ハテシマサツキ
ハテシマサツキ

建物のつくりが体験型アートのためにあるように思える。

すご〜い、きれ〜

デザイナー 岡崎 竜久
デザイナー 岡崎 竜久

ベネッセハウスミュージアム


ベネッセハウスミュージアムは近代アートを中心とした作品が並ぶ美術館。建物内に限らず、屋外にも多くの作品が展示されています。

柳 陽菜
柳 陽菜

美術館は絵の展示のイメージだったけど、オブジェも多くて面白い!

作品数が多くて、アート思考の題材を決められない…。

りこ
りこ

いざ実践!アート思考の世界へ

なんとか「一番気になった作品」を決めてもらい、ついにアート思考のプロセスが始まります。順を追って、それぞれのメンバーが導き出した答えをご紹介します。

ステップ①興味:気になった作品を見つける

まずは、興味を持った作品を1つ見つけます。その作品をよく観察して、なぜこの作品が気になったのかを言語化していきます。

(ハテシマサツキ)
興味を持った作品は、間違いなくジェームズ・タレルの『オープン・フィールド』。階段を登って絵のような空間に入ることから作品の体験が始まる。どこまで続くか分からない、青い光の空間を少しずつ歩いていく。そうして立ち止まると周囲の色が徐々に変化していった。自分自身の大きさや感覚が操られるようで、直感的に「死」を感じた。じわじわ空間が変わってゆくのを何も感じない、五感が鈍っていくような感覚に圧倒された。

※作品の撮影が禁止されていたため、気になる方はぜひ現地へ。

(りこ)
一番引き込まれた作品は、サム・フランシスの『ブルー』。直感で興味が湧いた理由は「かわいい色」だと感じたから。海のような質感で絵の中に飛び込めそうな感覚が、島にいることとリンクしているのかも知れない。水面に見立てると穏やかに見えるので、これを波立たせたくなった。白い壁に一枚飾られてたことで、作品が際立って見えたのも印象に残っている。

ブルー

『ブルー』サム・フランシス

(柳 陽菜)
印象的だった作品は、柳 幸典の『ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム1990』。アクリル板の中に砂でできた国旗が大量に並んでいて、その作品のインパクトは美術館の中でも異彩を放っていた。良く見てみると、アクリル板の中はアリの巣になっている。国旗同士はチューブで繋がっており、行き来できるようになっていた。砂で国旗を作ったことに感銘を受け、「どうやって作ったのか」と考えながら作品を鑑賞した。

『ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム1990』柳 幸典

ステップ②:なぜ?興味を持ったのか深掘りしてみる

おのおのが興味を持った作品について、どんなところに興味を持ったのか発表した後、やんややんやと感想を言い合います。

ここで大事になるのが、作品の感想を言い合う前に必ず自分一人で「なぜ気になったのか」を言語化すること。
他の人の感想を先に聞いてしまうと、純粋な考えが失われてしまうので、先に自分と作品の間にできた関係性や発見を言葉にします。これこそがアート思考の大事なステップ。

その後、他の人が作品をみてどう感じたのか、どんなところが気になったのか、意見を交換します。
新たな観点を発掘する上でのポイントは、「なんでなんで」と子どものように疑問に持つ事。

自分自身が抱いた疑問や行動原理をそのままにせず、目に映るもの全てに興味をそそられていた幼少期のように思考を巡らせることで、考えていることの言語化や客観視が促進されます。このように、課題解決の場面において必要になる「課題の発見力」が鍛えられます。

ステップ③言語化:アーティストの気持ちになってみる。

次は「言語化」と「内在化」を行っていきます。ここまでのステップでは、作品を観賞する人の目線で作品のことを考えてきましたが、ここからアート思考の本番「アーティストの気持ち」になって考えてみます。アーティスト側の気持ちや意図を考えることで、新たな視点が自分の中に取り込まれていくのを感じられるはずです。以下、3人が絵選んだ作品について、作者目線で「なぜ作ったのか」を考えてみた結果。

(ハテシマサツキ:ジェームズ・タレル 作『オープン・フィールド』について)
アートは絵画、平面という固定概念をなくしたいと考えた。それとともに、五感を圧倒するものを作りたいという感情が溢れ、制作に至った。作品では、特に光そのものを感じてほしい。際限のない光を。

(りこ:サム・フランシス 作『ブルー』について)
私は絵が描けなくなってしまった…。ふと何も描かない選択肢も頭をよぎったが、私は画家なので、描かなければいけないと強く思った。まずは日常的な風景を描いてみる。私の家の前には、海がある。海だけが変わらずそこにあった。木や森は成長するが、海は変化することはない。そんな静かな海を自分と重ねて描こう。見る人に行動を起こしてもらえるような作品を。

(柳 陽菜:柳 幸典 作『ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム1990』について)
世界中に旅に行きたかった。でも、寿命がわずかだった。落ち込みながらふと下を見ると、アリがお菓子を運んでいるのが見えた。その様子を自分と重ねた。そうだ、自分の代わりに旅させよう。この作品では、自分以外の生き物に命があること、そしてその命の尊さを伝えたい。世界地図は教科書や旅行パンフレットで見たことあるが、国旗の一覧は目にする機会は少ない。見る人に新たな発見を残すため、国旗のモチーフを用いた。

ここまで読んで、作品に詳しい人なら「作品の意図が全く違う!作者はそんな気持ちで作っていない!」と思ったでしょう。

でもそれでいいんです。

アート思考に正解はありません。自分で考えてみる過程に意味があります。
言ってしまえば、「作者の気持ちを考えてみましょう」という問題に対する答えが、すべて正解になる国語の授業のようなものです。

一般的な美術鑑賞とは異なり、小難しい技法や作者のバックボーンについて知る必要はまったくありません。

すぐにググったり、解説を聴いて答えを知ったりしてしまうと、基本的にそこからの発展はなくなり、せっかくの考える機会がなくなってしまうので非常にもったいないです。それゆえ、アート思考を用いた作品鑑賞をする場合は「全く知らない作品」を選ぶのが良いでしょう。

ステップ④内在化:「自分ごと」にしてみて考えてみる

最後に、自分自身の思考に『アーティストの思考』を通して得たインスピレーションを加えてみます。きっと、これまでとは世界の見え方が変わるはず。それぞれのメンバーに、自由に思ったことを語ってもらいます。

(ハテシマサツキ)
これまでにも「自分自身の感覚を重んじて生きよう」という意識はあったものの、身体の感覚が強制的に鈍らされるような体験をしたことで、その思いがより強く頭をもたげるようになったと感じる。今まで以上に自らの感覚を研ぎ澄ませて、インプット・アウトプットを強めたいと思った。

(りこ)
私自身、新たな環境に飛び込んでいる真っ最中なので、作品をその状況に重ねて見たところはある。新たな挑戦をすべきか迷っていたが、アートの鑑賞を通して絵画のみならず、自分自身に背中を押されたように感じた。

(柳 陽菜)
世界旅行をしたい、しかし様々な理由からできない。そんな私のフラストレーションが浮き彫りになったように思う。作者になりきって伝えたいメッセージを想像したが、何より私がそのようなモヤモヤを抱いていることに気づき、少し驚いた。

作者のメッセージとして想定したものが自身の願望や想いにつながっている印象です。3人は、アート思考のステップを踏むことで、ようやく自分自身の内なる気持ちに気づいたようでした。

アート思考の試行を経て

作品に興味を持ち、考えを深めて皆と共有し、他者の意見も受けてアーティストになりきり、思考方法を自分の物にする。こうしてステップを踏みながら、アート思考のプロセスを実際に体験してみました。
これは、まさに『感性を育てる体験』です。

アートに限らず、クリエイティブなビジネスやイノベーションを起こす上で感性は重要です。
新しいアイデアは「何か」と「何か」の組み合わせで生まれますが、何が生まれるかは、「頭の引き出し」に何が入っているかで決まります。それが感性の種となります。
美術館の芸術鑑賞とはまた違う、芸術作品との新たな楽しみ方でもあります。

アート思考のすごいところはここから。美術館や作品でのアート思考を通して成長した言語化能力と思考力は、あらゆるシーンで日常的に応用できるようになります。

特に、今回使用したビジョンスケッチの初級編「アーティストの思考を体験する」という新たな視点を自分の中に取り入れることで、物事を柔軟に考える「頭のやわらかさ」が身につきます。

これから訪れるVUCA(予測不能な未来)では、こうして多様な考え方を受け入れ、自分の考えを言語化する能力は必ず役に立つでしょう。

島とアートの関係性

島とアートは、独特の関係性を持っています。
地理的に範囲が限定された自然豊かな空間と、アートが持つ創造的な表現力が交わることで、特有の文化と需要が生まれています。

特に瀬戸内海の島々では、過疎化が進む中アートが地域活性化の手段として活用され、「瀬戸内国際芸術祭」のようなイベントが生まれました。島の自然や空き家を活かしたインスタレーション(空間で体験する作品)や現代アート作品の数々が展示され、地域の魅力を再発見するきっかけができています。

島でアートに触れる一番のポイントは、ただの観光資源としてのみならず、来訪者に「考える時間」や「感じる空間」を与えられるかどうか。アートを用いた島内外の関わりは一方通行ではなく、相互に影響を与え合うことが理想です。アートが島の魅力を引き出し、島がアートに新たな表現の場を提供することで、独自の文化や価値が生まれていく環境ができるでしょう。

アート思考を踏まえて、感想を聞いてみる。


今回、直島ではのびのびと芸術と対話することができ、都会にある美術館や学校、会社で行うアート思考とは、また違った体験ができたように見受けられました。今回、直島でアート思考を体験した3人に、感想を聞いてみます。

(ハテシマサツキ)
今回、島でアート思考を体験してみて思ったのは、何かに「向き合う」フィールドとして島が適していること。選択肢がシンプルな環境でこそ、思考は研ぎ澄まされます。まさに今回が新たな視点を身に付けるきっかけになったので、これからもこうした機会を島で作っていきたいと思いました。

(りこ)
自分の考えてることを伝えることが難しく、言語化をすることの重要性に改めて気づけました。これからも、島という環境下でたくさんの作品を見て言語化していけば、思考力と言語化能力が磨かれそうだと感じています。

(柳 陽菜)
純粋に楽しい時間でした。「絶対にこれが正しい」という枠組みがない中で、自由に考えられるのが素晴らしかったです。島とアート思考の相性も良く、自分らしさを磨けるいい機会になりました。最近は調べればなんでも出てきますが、だからこそ、時々こうした場でアートや自分自身との対話をすることには価値があると思います。

最後に。アート思考は作品を楽しむところから始まります。アート作品を見て「意味わからん」と思う方こそ、チャンスです!

なぜ意味がわからないのか、どんなところが意味不明なのか言葉にしてみると、面白いことがドンドン発見できるはず。理解不能だと思考放棄せず、「なぜ?」「なに?」を突き詰めていくとクリエイティブな思考が身につきます。

煮詰まったら、アートの島で、アート思考に挑戦してみては。

企画・取材・執筆:岡崎 竜久(デザイナー・デザインスタジオPuzzle Effect代表)
編集:ハテシマサツキ
協力:りこ・柳 陽菜

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