島の映像を見て「行きたい」と思わなくていい。そう語るのは、ドローンで離島を撮るRAVENプロジェクトの発起人、横田淳さんです。
観光でも移住促進でもない。「あえてプロモーションをしない」という理念を掲げ、神話のワタリガラス(RAVEN)のように俯瞰した視点で風景を切り取っています。
人間の視点を離れたからこそ見えてきた島の姿について、話を聞きました。

▼株式会社ドローンエンタテインメント 代表 横田 淳 氏
1984年、千葉県柏市生まれ。IT業界でコンサルタント・エンジニアを経てドローンレースの世界へ。日本代表パイロットとして活躍後、株式会社ドローンエンタテインメントを立ち上げ、現在は映像制作やイベント企画、教育事業を手掛けている。
自然と人間の「キワ」を求めて
——RAVENプロジェクト(以下、RAVEN)が動き出して約2年。これまでに粟島(新潟)、八丈島・青ヶ島(東京)、小値賀島・野崎島(長崎)、天草諸島(熊本)など全国の離島で撮影を重ねていらっしゃいます。撮影地はいずれも、人の少ない小規模な島が多いですね。
(横田さん:以下、敬称略)僕たちは、撮影対象を人口6,000人以下の村または有人離島にしています。対象エリアのアクセスが悪いことと、小さいこと。この2つが重要な条件です。

ドローンの撮影画像
——アクセスが悪いことと小さいことは、ともすればデメリットにも捉えられがちです。なぜこの2つが重要なのでしょうか?
(横田)まず前提として、僕たちは無人島を撮りたいわけではないんです。自然があって人間がいて、その間の「キワ」、接点とも言える部分がいちばん面白い。そのキワを見たいという知的好奇心が僕たちの原動力です。ですから、人の生活があることが絶対条件なんです。
そのうえで、アクセスが悪いと必然的に人工物が少なくなります。例えば飛行機が飛んでいない場所は、空港を作るために埋め立てをしたりコンクリートで滑走路を作ったりする必要がありません。だから、ありのままの自然と人間のキワがわかりやすいんです。
また、ドローンを飛ばせる環境かどうかという部分でのメリットもあります。例えばビルが密集した渋谷でドローンを飛ばすことは難しいですが、アクセスが悪く、周りに住宅や自衛隊の基地がない場所では飛ばしやすいんです。

(横田)「エリアの小ささ」に関して言うと、焼尻島の場合、数時間で歩いて一周できるサイズですが、そこで何百年も人々の生活が営まれてきました。つまり島のなかに、生活を維持できる生態系が全てあるということです。
日本もマクロな視点ではひとつの島国ですが、小さな島はその縮図として、自然と動物と人間のつながりがより見やすくなります。「小さいこと」を重視する理由はそこにあります。
——周りを海で囲まれた離島の中には規模が小さいものも多く、必然的にアクセスも悪くなりがちです。アクセスの悪さと小ささ、その2つを満たすのが離島なのですね。
離島の面白さは、フラットに撮らないと伝わらない
——横田さんが感じる自然と人間のキワの面白さを、映像ではどう伝えているのでしょうか?
(横田)こうした面白さは、よくある観光プロモーションのように特定の場所だけに注目していては見えてきません。光も影も合わせて、島全体をフラットに撮ることが必要なんです。そのために僕たちが大切にしているのが、Dehumanization(脱人間)とNot Promotion(プロモーションしない)というコンセプトです。
Dehumanizationとは、人間的な視点をあえて外すということです。人間の目というフィルターを通すと、どうしても感情移入したり自分の主観が入り込んだりしてしまいます。例えば「かっこいいところを見つけたい」と思って撮ると、見栄えがしないところは自然と外してしまいます。

(横田)でも、僕たちが使っている自作のマイクロドローンでは、主観を入れる余地がなくなります。ドローンの操作中は気を抜いたら墜落するため、余計なことを考える余裕がないからです。本当に自分も飛んでいる感覚なので、「こう撮った方がいいんじゃないか」という意識を強制的に排除しやすくなるんです。
——なるほど。Not Promotionを掲げているのも主観を入れないためですか?
(横田)はい。Not Promotionは、対価を事前にもらわないということです。お金をいただくと、「相手の要望を聞かなければ」とか「相手のためになるものを作ろう」という思いが入ってきます。さらにプロモーションとして「ここを撮ってください」と言われると、決められた範囲以外は見えなくなってしまいます。
そうなると、ドローンという鳥の視点で世界をさまざまな角度から見ることで得られる、新しい発見が失われてしまうんです。この新しい発見こそドローンを使う最大の価値なのに、です。
プロモーションしないからこそ得られた、プライスレスの経験

——はなれじま広報部が日々、島を取材するなかで感じていることでもあるのですが、島に行くにはそれなりにコストがかかります。対価をもらわず、どうプロジェクトを継続させているのですか?
(横田)撮った映像を資産として活用できる可能性は感じていますが、現時点ではマネタイズしておらず、自費で撮影しています。ただ、島では資本主義の枠に収まらないプライスレスな経験をすでにさせてもらっています。
——プライスレスな経験、ですか?
(横田)焼尻島に行ったとき、たまたまその年初めてのウニ漁を撮影させてもらえる機会がありました。漁師さんは一人漕ぎのボートに乗って足だけでオールを操作しながら、頭を海面につけた不安定な姿勢でウニを獲ります。2,3mでも波があれば簡単に転覆してしまう、命がけの現場です。

ドローンの撮影画像
これほど危険な漁だったと初めて知り、港で漁師さんの奥さんが心配そうに待っていた様子に納得しました。そして、撮影を終えて高速船で島を出る直前、漁師さんが港にかけつけて「腹減ったろ!これ持ってって」とウニをくれたんです。
彼らが命がけで獲った採れたてのウニを、船の上でいただく。それは、プロモーションとしてお金をもらって撮影する仕事とは全く別の、貴重な体験でした。
「人生を考え直した」と言われる映像
——RAVENで撮影した映像は、その後どう活用していますか?
(横田)東京・日本橋の「離島百貨店」さんなどで、何度か上映会を開催しています。お客さんからは、「あの島に行きたくなった」という感想がありましたが、それよりも「鳥になっている感覚」「癒されました」というコメントが嬉しかったんです。
——それはなぜでしょうか?
(横田)RAVENがプロモーションにはならず、島の生態系をフラットに伝えられていることの証だと感じられたからです。生態系の循環を感じて知的好奇心が動く瞬間を、映像を通して伝えられたらと思っています。
あるとき、50代の男性が「この映像を見て自分の人生を考え直しました」と言ってくれたこともありました。
——印象的な言葉ですね。横田さんが感じ取ってほしい生態系の循環とは、具体的にどういうことでしょうか?
(横田)焼尻島のウニ漁を例にとると、漁師さんが獲るウニは海藻を食べて育ちます。その海藻は川から流れてくる森の栄養分で育ち、森は雨で育ちます。そこには雨、森、土、海のつながりがあります。
その循環を知識として学ぶというより、映像を通してふわっと感じ取ってもらう。それが大事だと思っています。
例えば、ウニ漁には危険がある。森にはカエルがたくさんいる。原生林の木々は風の方向によって様々な向きに曲がっている。そういった事実だけを誰かに媚びたり寄り添ったりせず、人間の視点を入れずに伝える映像はこれまでなかったと思います。それが、先ほどの男性の言葉につながったのではないでしょうか。
RAVENの映像を見て「島に対する目線を変えてみよう」と思ってもらえたら、撮った甲斐がありますね。

——人間以外の視点で見ることで、これまで気づかなかった自然界のつながりが見えてきますね。鳥の目が映す新しい離島の姿を、これからも楽しみにしています。
企画・取材・執筆:卜部奏音
編集:ハテシマサツキ
※はなれじま広報部では離島という文脈で、島内外の企業とのコラボレーションやタイアップ記事の制作を承っています。プロモーションを超えたPRをご一緒に。お問い合わせをお待ちしております。





