今回、はなれじま広報部が向かったのは「猫島」として知られる福岡県・相島(あいのしま)。猫を目当てに観光客が集う島こそ多くありますが、中でも相島は「世界6大猫スポット」としてCNNから選ばれたこともあり、国内外への高い集客力を持ちます(宮城県・田代島も同時に選出されています)。
もちろん猫に癒されたいという気持ちもありますが、それは別の記事にとっておいて…この記事のメインテーマは「猫島のマネタイズ」。猫を取り巻く島経済はどのように循環しているのか、実際に相島へ上陸して取材してきました。
猫島として名高い相島(あいのしま)へ
2024年9月某日。はなれじま広報部の2名(ハテシマサツキ・たがみ)は、福岡県・新宮漁港から出発した定期船の中にいました。出港時刻ギリギリに到着したこともあり、船内はほぼ満席。立ちスペースも人で埋まっていました。
ぱっと見たところ、大半は観光客の模様。海外の方も比較的多い印象です。ここ最近、地元の方が多く乗られている定期船ばかり利用していたので、少し新鮮な感覚。
船は15分程度で相島へ。招き猫のオブジェがお出迎えしてくれる船着き場には、さっそく数匹の猫とたくさんの人だかりが。カメラを構える方も多いです。
そこから少し島内を探索してみると、確かに猫が多いことに気がつきます。取材日はかなり気温が上がっていましたが、それでも日陰にはちらほら猫がいるのが分かります。そして、それを起点にして観光客が群がります。撫でたり、写真を撮ったりと思い思いに猫と触れ合っていました。
猫のお世話をする方にお話を聞いてみる。
港からほど近い場所で、自転車に猫のエサをたくさん積載している方がいました。特定非営利活動法人 SCAT(以下「SCAT」) 代表理事の山﨑 祥恵さんです。この島の猫に関する情報を集めるため、お話をお伺いしました。
島猫たちの命は一代限り
——今から何をされるのでしょうか。
自転車で島内を周り、各地区にいる猫たちにエサのキャットフードをやりにいきます。エサは市販のキャットフードですが、島内には猫が180頭程度いるため、毎日かなりの量を消費しています。海外を含む島外の方々からご支援いただき、不足分はSCATと地元団体「相島猫の会」の購入分でまかなっている状況です。
そうこうしている間に、エサやり場に到着しました。山﨑さんは素早くキャットフードを皿に取り分け、猫の前に置いていきます。あっという間に私たちを囲む猫たち。よく見ると、みな耳が桜の花びら型にカットされています。避妊・去勢手術済みであることを示す証だそう。
——避妊・去勢手術は地元団体によって行われたのでしょうか。
はい。相島猫の会、SCAT、「福岡ねこともの会」の3団体と多くのボランティアさんが協力して、野良猫すべてに手術を施しています。はじめのうちはSCAT、福岡ねこともの会、ボランティアさんで手術を進めていましたが、あまりに猫が多く追いつかなかったんです。そのため、動物基金に申請をして近隣の団体やボランティアさんを巻き込む形で手術を進めることにしました。最終的には300頭あまりに手術を施しています。
手術後に生まれた島内での「変化」
——全頭に手術をされたのはとてつもない労力だったと思います。
それでも「やり遂げなければ」という想いがあったので、多くの方と協力しながら全力で取り組みました。実は私たちがこうした活動を始めるまで、相島の猫たちは野放しになっていたんです。2019年に初めて相島を訪れた際の状況は悲惨でした。島に着いた途端、糞尿の悪臭が鼻をつくんです。エサがないので島の猫たちはみな痩せ細っていて、子猫も生後すぐに死んでしまっているようでした。
——なぜそのような状況に陥ってしまったのでしょうか。
相島では、かつて漁網を食い荒らすネズミ対策として猫が飼われていたという背景があるのですが、漁業従事者が減ってしまったことから、それらの猫が野良化して繁殖してしまったんです。島内では「増えたら困る」ということで管理がほとんどされず、相島の猫は半ば厄介者のような扱いに。ただ、猫は飢餓状態だとかえって繁殖しようとするんです。痩せた子猫だけが増え続け、「虐待ではないか」という島外からの声が相次ぎました。
当時、相島はCNNの「世界6大猫スポット」に認定されたほか、新宮町と西日本鉄道のコラボ企画「西鉄電車に乗ってねこのしま『相島』へ行こうキャンペーン」で観光客から注目を集めていました。そうした背景もあり、猫島プロモーションで描かれる猫島のイメージと、実態のギャップに目が向いたようです。インターネット上でも悪評が立っていました。
——そうして手術が決まったんですね。
はい。手術後、相島猫の会中心で猫の管理が行われるようになり、島民の方々からの目線も少しずつ変化していきました。今では、以前のような厄介者扱いはされなくなっています。かつては島内全域でエサやりを禁止していましたが、今では「キャットフードに限りエサやりOK」というルールを周知しています。猫たちも穏やかになり、島の雰囲気が変わったのを感じましたね。
手術を経て、これまでとは異なる距離感で人間と共存する道を歩むようになった相島の猫たち。山﨑さんをはじめ、たくさんの人たちが一代限りの命を見届けています。最後に、本記事のメインテーマである「猫島のマネタイズ」について聞いてみました。
——手術後、猫を中心にした経済が回りはじめたのでしょうか。
たしかに相島へ訪れる方がたくさんいらっしゃるという意味では、猫がもたらす経済効果は大きいと思います。島に来るのには定期船を利用することになりますし、島内では食事もするでしょう。ただし、猫目当てに相島に来る方向けに島内で新たな観光施策が行われたケースはまだあまりないので、事例としてはまだ発展の途中かもしれませんね。
猫関連のマネタイズポイントを探してみる。
山﨑さんに感謝をお伝えし、私たちはもう少し島内を巡りながら、猫に関連するマネタイズポイントを探してみることにします。島内には食堂や商店などの店舗がいくつかあるので、島猫を目当てに訪れた観光客に向けた商品やサービスがあるはず。そう考え、港や集落へ向かってみました。
定期船
相島へは新宮漁港から町営渡船「しんぐう」が就航しています(取材日はメンテナンスのため代船での運航でした)。1日5〜6往復(※季節により変動、2024年時点)が運航されており、料金は大人片道 480円、小児片道 240円です。観光客は基本的にこの渡船を利用して相島へ渡ることになるため、お金が動くポイントとしては分かりやすいといえるでしょう。
島の駅
港からほど近い場所に位置するのは、「島の駅 あいのしま」。島の観光交流拠点として、観光スポットの案内やパンフレットの配布を行っています。施設内を探索してみると…。
売店で見つけました!猫たちの様子を映像で記録したDVDが販売されています。どうやら、映像に映っているのは相島の猫だけのよう。猫島としての対外的な認知度が高いことがうかがえます。
しかし、こちらの売店の猫関連商品はこのDVDのみ。他には、島内の史跡である相島積石塚群の「御墳印」や、定期船「しんぐう」のペーパークラフトなど相島ならではの商品が並びます。島猫をきっかけに来島した方が、その他の魅力を知るきっかけになりそうですね。
食堂
続いて、島の駅に併設されている「丸山食堂」へ。ちょうどお昼時だったこともあり、多くの観光客でにぎわっていました。ここでは猫に関連するメニューはありませんでしたが、「ラブ♡コロッケ」が名物として謳われています。ハート型をした相島の形にちなんだ商品です。だいたいの方が、コロッケ定食か刺身定食を注文しているようでした。
商店
昼食を済ませ、お隣にある「新宮相島漁協購買店」へと足を運びます。商店で猫関連の商品を探そうとしましたが、店先で飛び込んできたのは「ネコのエサ ありません」の文字。そう、この島でネコのエサを入手できるスポットは一つもないんです。
店内にお邪魔すると、棚には生活雑貨が並び、島の生活を支える貴重な売店であることが分かります。観光客が購入しそうなものだと、近海で獲れる魚の干物やアカモク(海藻)の取り扱いがありました。冷凍もしくは冷蔵保存の商品が多いため、遠方だと持ち帰りができないという問題はありそうです。
カフェ
海岸沿いを歩いていくと「カフェレストラン」の文字が見えたので近づいてみましたが、取材日(2024年9月12日)時点では営業していないようでした。その他、相島で飲食できそうなお店はいくつかあったものの、閉まっている店舗が多い印象です。その他、観光客がお金を使いそうな場所としては、自動販売機が挙げられます。
相島は、猫の手を借りられたのか
集落をひととおり巡り、港に戻ってきました。今回の取材での率直な感想でいえば、相島は地域振興の方法を模索している過程にあるような印象を受けました。
猫を目当てに多くの観光客が押し寄せているものの、そこからマネタイズにつなげられるポイントは決して多いとはいえません。実際、観光客の多くは猫の写真を撮ったり、島内を歩き回ったりといった散策に終始しているように見受けられました。お昼時には飲食店がにぎわいますが、昼過ぎの定期船でほとんどの観光客が本土へ戻るため、島内は静かになります。この風景が、等身大の島の姿のように感じました。
猫島として国内外に広く知られているその名前と、かつて漁業で栄えた島の現状。そして高齢化率は2020年時点で60%超。猫たちがいなくなったその時、相島の様相はさらに変化を遂げるでしょう。
相島の他にも、産業構造の変容や高齢化によって、島民の暮らしを守るだけで精一杯の島は数多く存在します。単に来島者数を増やすだけでなく、持続可能な産業として定着させるという観点では、離島における観光業の振興は至難の業だといえるのではないでしょうか。猫島の「その後」を示す事例としても、相島の今後は注視しておくべきだと強く感じました。
はなれじま広報部では、日本の離島におけるEC・PR事例を中心に取材記事を更新しています。また、島内外問わずECサイトや広報、コンテンツ制作に関するご相談を受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。
企画・取材・執筆:ハテシマサツキ